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「きょうの料理」66周年  畑中三応子 食文化研究家  連載「口福の源」

2023.11.13

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「きょうの料理」66周年  畑中三応子 食文化研究家  連載「口福の源」の写真

 NHK「きょうの料理」がテレビ料理番組の最長放送として、ギネス世界記録に認定された。今年で66周年、これまで紹介したレシピは約4万7千に及ぶ。(写真はイメージ)

 テレビ料理番組の歴史はさらに長い。NHKの放送開始は1953年2月1日だが、早くも翌日、午後の主婦向け番組「ホーム・ライブラリー」で週1回の料理教室が始まった。これが「きょうの料理」の前身だ。

 当時はすべて生放送。カメラは上下に動かせず、白いものを撮ると黒ずんでしまうなど、技術的な問題が山積みだった。料理研究家の土井勝さんはおせち料理の黒豆を盛るとき器に見立てた大根を黄色に、布巾と自分が着る白衣は水色に染め、美しい白に映るよう工夫したという。

 「きょうの料理」の放送スタートは57年11月。1回目の講師は、戦後の食生活改善運動をリードした栄養士の近藤とし子さん。それから2年、近藤さんは月初めに栄養学の見地からの料理作りと旬の味を指導した。まだ栄養不足の時代で、番組のコンセプトが第一に国民の栄養改善だったことが伝わる内容である。

 最初の2カ月の料理をみると、洋風17回、和風10回、中華風5回と洋風料理に比重が置かれ、その傾向はずっと続いた。肉や油を食べる量が増え、食卓の西洋化が一気に進んだのが高度経済成長期だった。

 初期の女性講師は良家夫人が多く、お塩、お野菜と材料に「お」をつけたり「〜していただきます」を多用したりと、皆〝奥さま喋(しゃべ)り〟だった。西洋料理専門の飯田深雪さんだけは「お」抜きだったので、叱(しか)られているようだと投書が来たそうだ。現在も料理研究家が必要以上に丁寧な喋り方をしがちなルーツは、ここにあるのかもしれない。

 当初は月~土曜の12時50分から13時までの10分だった放送時間は59年から15分に、63年から20分に増え、62年には9時半スタートに変わった。経済成長につれ増えつつあった専業主婦を対象に絞ったのが理由。専業主婦率は75年にピークに達し、以降は働く女性が増えていく。それに合わせて76年、夜9時から教育テレビ(現Eテレ)での再放送が始まった。

 83年に「男の料理」が新設され、同時期から忙しい共働き家庭のための特集と、健康志向の特集が増えた。当初は20%もあった梅干しの塩分は、現在5%まで減っているという。また、開始時は5人分だった材料は65年、4人分に変更され、2009年から2人分になった。

 各時代の変化を反映し、歴史を紡いできた「きょうの料理」。進む少子高齢化と単身世帯の増加のなかで、今後どんな家庭料理を発信していくのか。30年間番組を担当している矢内真由美チーフプロデューサーは「これからも手づくりの良さ、おいしさを伝え続け、100年継続を目指します!」とコメントした。私としては、これ以上のコメ離れを食い止めるような仕掛けをしてほしいと思っている。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年10月30日号掲載)

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