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力仕事に頼らない職場へ 羽田空港、進む女性活躍  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員  連載「よんななエコノミー」

2023.10.30

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力仕事に頼らない職場へ 羽田空港、進む女性活躍  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員  連載「よんななエコノミー」の写真

 先日、飛行機を利用して愛媛県松山市に行ってきました。出発地の羽田空港では、搭乗に際してボーディングブリッジを利用することなく、久しぶりに駐機場をバスで移動することになりました。多少時間はかかりましたが、ボーディングブリッジを利用していては見ることができない、空港の舞台裏を見学するツアーのようでなかなか楽しいひとときとなりました。

 駐機場をバスでゆっくり移動していると、興味深いことに気が付きました。それは、空港以外では見かけることのない珍しい機材の運転、飛行機の誘導をしている空港従業員として数多くの女性が働いていることです。女性従業員を目で追っていたからでしょうか、印象としては働いている人の半数近くが女性のように感じられました。

 少し前までは、空港での女性の仕事は、乗客を向かい入れるカウンターでの業務やラウンジサービスなどが中心だったように記憶しています。重たい荷物のハンドリングや大きい機材の運転などは、もっぱら男性の仕事という切り分けがありました。人手不足もあってか、以前は主に男性が担っていた駐機場などでの業務(ランプサービス)に、広く女性が進出してきているようです。

 雇用の男女平等の観点から当然ということなのかもしれませんが、私が空港業務でみかけたこうした出来事は、それだけにとどまらない新しい社会に向けた変化をもたらすことにつながると考えられます。それは、男性の仕事とされてきた職場に女性が進出することを前提に仕事の中身や職場環境を見直すと、当たり前と思われてきた重労働や長時間労働を改めていく推進力になるということです。

 空港業務であれば、乗客の重たい荷物を運搬する仕事は、その典型です。ランプサービス事業者は、女性も担うことを前提に、人手により運搬する作業を極力減らすため、自動運搬の機器の導入に力を入れています。どうしても手で荷物をハンドリングしなければならない作業でも、作業員の腰への負担を抑えるため、一部ではパワーアシストスーツの導入が図られています。運搬機材には、当の昔にパワーステアリングなどのアシストシステムが導入されており、運転に強い力は必要ありません。

 重たい荷物を運んだり、大きな機材を運転するのは男性の仕事というアンコンシャスバイアスに縛られ、女性への門戸開放を進めていなければ、パワーアシストスーツや荷物の自動運搬機器の導入は後回しになっていたかもしれません。また、女性に門戸を開放することを前提に、男性の力に頼った仕事の見直しを進めたことは、より安全で快適な、さらには作業性が高い効率的な職場への改善が進んだと考えることができます。

 しかも、男性の力仕事に頼らない職場への改善努力は、女性に限らず高齢者や障がい者の就労に可能性を開くことにつながるでしょう。さまざまな職場で女性活躍が進むことは、当たり前と思われている仕事のやり方を見直すきっかけであるとともに、多様な人々が社会を支える担い手となることができる成熟した社会を構築する第一歩だといえるのではないでしょうか。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年10月16日号掲載)

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