静岡県唯一の離島、初島 小島愛之助 日本離島センター専務理事 連載「よんななエコノミー」
2023.10.16
静岡県熱海市に属する初島は、伊豆半島東部の相模湾海上に浮かぶ島である。静岡県唯一の有人離島で、熱海市中心部から南東に約10キロの位置にあり、周囲4キロ、面積0.4平方キロメートルの島に約190人の住民が居住している。本州からの交通は、富士急マリンリゾートの定期船「イルドバカンス」(1日10便)が熱海港から30分で運んでくれる、首都圏から一番近い有人離島として知られている。
すべてが火山島である伊豆諸島と異なって、初島は火山島が活動を終え、浸食されて海中に沈没し、再び隆起してできた島であると考えられている。初島灯台が立っている島内最高地点(海抜約50メートル)のあたりは、2万年ほど前に海上に姿を現したといわれている。ちなみに最も新しい隆起は、1923(大正12)年の関東大震災によるものである。
島内には、約7千年前の縄文時代の遺跡が全域にわたって点在しており、遺跡の出土品である黒曜石の産地が神津島から長野県霧ヶ峰までの幅広いエリアにわたっていることに鑑みると、太古の昔から海を越えた交流が行われてきたことがうかがえる。
島の玄関口である初島港から徒歩1分のところにある初木神社は古墳時代から続く霊場である。祭神である初木姫は、第5代孝昭天皇の時代に難破船で島に漂着した後、伊豆山の伊豆山彦という男神と結ばれ、伊豆山権現の氏子の祖とされる日精・月精の育て親となるといった伝説のある神であり、そうした伊豆山との神話上の結び付きの強さから、初木神社は伊豆山神社の境外社となっている。
島の産業は古くから漁業と農業である。江戸時代を通じて、天領(幕府直轄領)から小田原藩領、そしてまた天領へと変わってきたが、島内の戸数は41戸前後で守られてきており、この戸数が現在まで続いている。島内の耕作地や生活用水が限られていることから、次男以下は島を出ていき、男子がいない場合は婿を取って、一定の人口を維持するという不文律が脈々と守られてきたのである。農業や漁業は共同作業で行われ、耕作収穫物も漁獲もほぼ均等に分けられてきたという。
初島の観光にはリゾート開発の歴史が折り重なる。1964年には富士急が「初島バケーションランド」をオープンし、ピーク時には年間15万人の来場者があったという。その後施設の老朽化に伴い、2006年に「初島アイランドリゾート」に改名して全面改装し、さらに19年に「PICA初島」となって現在に至っている。
また、初島の住民が初島区事業協同組合を設立して10%を出資することにより、「初島クラブ」というリゾート施設が1993年に開業している。しかし、バブル崩壊の影響もあり会員募集が順調に進まず、当初から苦しい経営を強いられ、99年に倒産した。その後、リゾートトラストの支援の下で再建され「グランドエクシブ初島クラブ」として営業が継続されている。なお、98年に来日したロシアのエリツィン大統領(当時)は、橋本龍太郎首相(同)と共に「初島クラブ」に宿泊している。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年10月2日号掲載)
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