十勝の浜で未来につなぐ昆布漁を見た 中川めぐみ ウオー代表取締役 連載「グリーン&ブルー」
2023.10.23
「『拾い昆布』をする面白い漁師さんがいるので、会いに行きませんか?」。そう誘われて向かったのは、北海道・十勝の広尾町。海辺に流れ着いた昆布を拾うほっこりした風景を思い浮かべていた私の前に現れたのは、ハンマー投げ選手のごとくダイナミックなフォームで巨大なカギ針を海へぶん投げる、屈強な漁師さんでした。
カギ針には長いロープがついており、それを巧みに操りながら海中を漂う昆布をキャッチ。ずるずると引き上げられた昆布は想像を絶する量で、その重さは数十キロに及ぶそう! 〝昆布筋〟と名付けたくなるガッシリした腕と、柔らかな笑顔が素敵なこの方こそ、噂の保志弘一さん(38)です。
保志さんは広尾町の漁師の家で生まれ育ち、高校卒業と同時に自身も漁師の道へ。季節に合わせてさまざまな漁を行いますが、特に力を入れているのが昆布なのだそう。
今では海外でも「Umami」という言葉が広がり、出汁、つまり昆布も注目されるようになりました。そこに勝機を見いだし昆布漁に励んでいるのかと思ったら、保志さんの原動力はその逆、圧倒的な危機感にあるといいます。
話を伺うと、昆布漁の状況は非常に過酷。取ることも大変ですが、それを洗う、干すといった工程も重労働で、熱中症で倒れてしまう人もいるとか。それなのに買い取り価格は低く、昆布漁師さんの年収は400万円に満たないことが多いそうです。(写真はイメージ)
「なんとかして昆布漁を未来につなぎたい」。そう話す保志さんの活動には、目を見張るものがありました。
筆者が保志さんに感じたすごさは、巻き込み力、対話力、そして行動力です。「異なる視点で水産業を強くする」「人の流れが止まると腐る」「今この時にどうするかを考え続ける」。保志さんはこうした言葉を繰り返していましたが、それを体現するように、町内外の多様な人々を巻き込む企画を積極的に実施。IT、食、建築、医師、学生など、職種も年齢もバラバラな環境に身を置いて、生かかせるものがないかと試行し続けています。
その中で生まれた一つが「星屑昆布」という、昆布を2ミリ弱に粉砕した製品。昆布は出荷する際に105センチの長さに切りそろえるのが通例ですが、その作業を見ていた建築士から「端切れがもったいない」と言われたのがきっかけで開発に踏み出しました。
料理人の方々の協力もあり、うま味成分をより多く、早く、簡単に抽出でき、さまざまな調理法として使える製品が完成。製造には特殊な機械や技術がいるものの、従来の数倍の価格づけが可能になったと語ります。
保志さんはこうしたノウハウを徐々に広げて、地域や業界に良い変化を起こしていきたいそう。先人たちへのリスペクトと、未来へつなぐためのチャレンジ。この両軸を持った彼なら、笑顔で進み続けられるでしょう!
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年10月9日号掲載)
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