規格外野菜と農業経営 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連載「グリーン&ブルー」
2023.10.16
今夏の高温・渇水は農業に深刻な影響を与えている。米は収量や品質に影響が出ており、野菜も葉が枯れてしまう、実が大きくならないといった高温障害を起こしている。市場入荷量が少ない野菜もあり、先日スーパーで2人連れの女性が「最近、野菜高いよね」とつぶやいていた。(写真はイメージ)
そうなると、メディアはこぞって規格外野菜に着目する。先日、知人の農家がテレビ局の取材を受けた。「賢い野菜の買い方を提案してほしい」という内容だった。異常気象が常態化する中、安定供給するための工夫にも触れていたが、取材の狙いは「規格外野菜」。規格外野菜が割安である理由、規格品との味の違いなど質問の回答に追われたという。
「規格外野菜なら消費者も安価で購入でき、農家も助かり、食品ロスも減って三方よし」という企画意図があったのだろう。取材後、農家がぼやいていた。「無駄なく食べてもらえればうれしいが、私たちは規格品で生計を立てている。規格外と規格内の野菜が相関関係にあると知ってほしいということも話したが、このセリフは見事にカットされた(笑)」
食品ロスとは市場に出回りながら、消費されない食品を指す。まだ市場に出回らずに、農家の段階で自家消費、または処分される規格外野菜は食品ロスに該当しない。ただ本来は市場に出回るものとして「隠れロス」といわれる。いずれにせよ、食品ロス問題は農家にとって悩ましい存在なのだ。
消費者は「余らせたくない」という意識が高まって、必要な分量だけ買い物をするようになった。そのため、カット野菜やバラ売りが増えた。その分、野菜の需要は減った。家計調査によると、2人以上世帯の生鮮野菜の購入数量はこの20年間で15%減った。サラダなど調理食品の需要増加が影響しているといわれるが、消費者が購入する単位が小さくなったことも一因だろう。
コロナ禍で外出を自粛する人が増えていた当時、飲食店などで消費される米、いわゆる業務用米の需要が落ち込んだ。米卸に聞くと、「ご飯を出す飲食店は、切らすわけにいかないので、(ロスを覚悟で)多めに炊飯していた。そんな飲食店が休業や時短営業になり、一気に需要が減った」と言っていた。米の約4割が業務用に使われているが、一定の食品ロスも含まれていたわけだ。
家庭でも飲食店でも「ロス」を許容することで、農産物の需要維持につながっていた。今後、食品ロスへの問題意識が高まれば、人口減少とは別に、需要減少に拍車がかかるかもしれない。
冒頭の農家もこの風潮を座して待っているわけではなく、規格外野菜を総菜などに加工して直売所で販売している。消費者には食べるだけの規格内野菜を買ってもらい、規格外は農家段階で付加価値を付けて商品化する。これが、農家にも消費者にも望ましいスタイルではないだろうか。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年10月2日号掲載)
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