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フードバンク  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」

2023.10.02

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フードバンク  野々村真希 農学博士  連載「口福の源」の写真

 「フードバンク」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 通常のルートで流通できない食品を企業などから寄贈してもらい、必要としている施設や困窮世帯に無償で提供する活動のことである。食品企業は、商品を作るときに販売の規格に合わない商品を生んでしまったり、売れ残って販売期限が過ぎた商品を抱えてしまったりすることがある。そういった商品は現状捨てられることが多いのだが、まだ食べられる場合も多いので、活用しようというボランティア活動が一部で行われているのだ。(写真はイメージ)

 フードバンク活動を行う団体はNPO法人が多いが、生協や地方自治体、学校法人の場合もある。個人が運営している場合もある。団体数はすごい勢いで増えていて、20年前には4団体しかなかったのに、10年前には10倍になり、現在は国が把握しているだけでも233団体ある。それだけ、社会に求められているということだ。実際、コロナ禍の就労状況悪化や物価高騰の影響でフードバンク団体へ食料の支援を求める人が増えている、というニュースをここ最近見るようになった。

 しかし運営上の苦労や課題は多いようだ。まず活動資金の不足と不安定さ。食品は企業から無料でもらえるが、食品の受け取り・配送の輸送コストは負担しなければならないことが少なくない。保管設備を持つならそのコストも発生する。それらは助成金や募金で賄いきれないこともあるし、助成金も募金もいつまでもらえるか分からない。

 また、人手の不足。企業・配送先との連絡調整、入出荷作業はもちろん、寄贈された食品を責任もって流通させるのだから、食品の取扱記録管理や衛生管理はきちんと行わないといけない。業務量は膨大だが、スタッフが少ない、雇えないところは多い。また、寄贈される食品と必要な食品にギャップがあるという問題や、提供した食品で万が一食中毒などがあった時に責任を問われることを心配し、企業が食品提供に二の足を踏む問題もある。

 フードバンク活動に携わっている方は矛盾や葛藤も感じている。広島市のフードバンク団体「あいあいねっと」代表の原田佳子さんは、資本主義経済の中で再生産される貧困を、同じく資本主義経済の中で再生産される食品ロスによって支援する、というフードバンク活動の矛盾を指摘する。私が大学院生の時に取材したフードバンク団体からは、行政が本来担うべき困窮者の支援が、なぜボランティア活動であるフードバンク活動に任されてしまっているのか、という声を聞いた。

 フードバンク活動を応援しつつも、企業の食品ロス削減活動と困窮者支援が本当に目指すところはどこなのか。忘れずに考え続けたい。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年9月18日号掲載)

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