人口減少時代の水道事業 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」
2023.09.25
全国の水道事業が曲がり角を迎えています。過疎地域を抱える水道事業者は、給水人口の減少で事業の収益が低迷し、既存の水道施設の更新に踏み出せない状況です。
厚生労働省では、小規模集落を対象とした〝運搬送水〟を一つの選択肢に位置づけようとしています。運搬送水とは、取水、浄水、配水の各設備をフルセットで保持し続ける代わりに、別の場所で浄水した水を小規模な配水池やタンクなどに運び入れ、そこから各家庭に配水する仕組みです。取水、浄水への投資や維持費が軽減されるため、給水人口が少ない地域には適した手法と考えられます。
既に宮崎市は、住民が10人に満たない二つの地区で運搬送水を実施しています。宮崎市では、運搬送水の導入にあたり、給水車の更新なども含めて20年間の費用を単純計算すると、一般的な水道事業によって配水を維持していくよりも、運搬送水のほうが約1・9億円安価になると見込んでいます。
小規模集落に適した運搬送水という事業ですが、課題もあります。まず、運搬送水は供給量に限りがあるため、利用は基本的に生活用途に限られ、火災の消火には十分ではありません。そのため、消火用には井戸水や河川水などの利用を可能にする備えが別途必要になるでしょう。
また、給水人口とタンク車のサイズにもよりますが、運搬の回数は多くならざるを得ません。宮崎市の両地区へは、それぞれ週に3〜4回の頻度で運搬しています。当然、自然災害などで道路が通行できない状況になれば、地域はたちまち水不足に陥ることになります。
さらに、運搬送水を検討すれば、過疎地域における水道事業が構造的に赤字事業であることに向き合わざるを得なくなります。宮崎市における両地区への運搬送水は、安価とはいっても、タンク車の購入費などを除いた維持管理費として、年間600万円近くが必要となります。当然、両地区から得られる水道料金で賄うことはできません。全国で人口が減っていく時代に、水道事業をどこまでユニバーサルサービスとして維持していくことができるのか、今後わが国が直面する大きな課題です。
「湯水のように使う」とたとえられるように、日本では水は安価でいくらでも使えるものの代表でした。しかし、人口減少や過疎の進展などによって、運搬送水のように、多少不便でも新しい仕組みにチャレンジしていかなければならないことは明らかです。
まずは、過疎地域の水道事業の赤字抑制と地域のさまざまなユニバーサルサービス維持に向けた取り組みが求められます。例えば、タンク車が地域の物流や郵便、新聞の配送、移動販売、さらには道路や橋梁などのインフラの点検なども担うように進化していくことも一案です。ただ、過疎地域における水道事業の赤字体質は構造的な問題であることから、ゆくゆくは居住エリアを絞り込むコンパクトシティーの形成に、目を向けていかざるを得なくなるでしょう。人口が減りゆくわが国では、地域を支えるために、新しいアイデアの実践や人口規模に適したまちづくりが求められているのです。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年9月11日号掲載)
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