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政府備蓄米を維持し、気候変動に対処せよ  小視曽四郎 農政ジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」

2023.09.25

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政府備蓄米を維持し、気候変動に対処せよ  小視曽四郎 農政ジャーナリスト  連載「グリーン&ブルー」の写真

 世界の平均気温や海水温が相次いで過去最高を記録し、日本の夏の平均気温も125年前の統計開始以来、最高の見込みという。クーラーを持つ人間はともかく、米などの穀物や野菜、家畜などはこれから5年後、10年後、どう夏場を越していくのかと心配になる。(写真はイメージ)

 当然、この猛暑は現在、検証中の農業基本法論議を直撃と思いきや、審議委員のある民放テレビ解説委員は「現代人は米があれば満足、安全保障が足りるというわけにはいかない」と備蓄米100万トンを減らせ、と主張し、経団連の役員氏も大いに賛同したとか。要は備蓄予算490億円を減らせ、ということらしい。食料安保より財政削減優先の財務当局の主張と似る。代わりに麦や大豆の備蓄を増やしてというなら分かるが、食料問題へのリスク感覚がずれている。国民の食への保険と思えば490億円は高くはない。

 だが、備蓄米の削減は農水省自体もまんざらではない、とのが聞こえるから驚きだ。同省は民間の流通在庫が200万トン前後あるから少し減らしても、とのようだが、米流通を甘く見てはいけない。米の作柄次第で流通量が少しタイトになると米相場は敏感に反応し、一気に上昇する恐れがある。時には、早くも買い占めに走る人たちも現れる。食品関係で数少ない物価高騰下の〝優等生〟が劣等生になりかねない。そうなると国民の心情は一気に厳しくなる。

 実際、国内外、周囲から発せられる数々の危険シグナルに目を向ければ、備蓄米を減らすというのは無謀と言わざるを得ない。

 7月末に世界最大の米輸出国インドが一部輸出禁止をし、米の国際相場が一気に7%上昇。世界3位のベトナムも5月末に2030年までに4割、約300万トンの輸出量の削減方針を決めた。インドは国内相場の高騰のため、ベトナムも長期的な気候変動に対処した。

 記録的な暑さが、国内稲作やその他の作物にも大きな影響を与えるのは間違いない。「毎年この暑さとなれば、国内の農業に相当な影響は必至」(東北地方の稲作農家)。だが、難しいのは、稲作には寒かったり災害に遭ったりと、人智を超えたトラブルが襲うのが常識だ。不作が1年で終わるとは限らず、3年、4年と続くこともある。そうなると食糧当局は大慌てだ。

 1980年から83年まで東北地方で4年続いた冷害で、84年には韓国から緊急輸入した。93年の大冷害時には、アジア各国から「集められるだけ集めろ」の食糧庁長官(当時)の号令で約300万トンをかき集めたが、その影響でアジア国内の米相場が急騰し大いに迷惑をかけた。

 このほど発表の昨年度の食料自給率、食料自給力はそれぞれ過去最低水準。さらに新規就農者数も前年から12%もの減少と過去最少。どれだけ無残な農政が進行中か改めて反省し、せめて政府備蓄米は維持することを求めたい。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年9月11日号掲載)

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