相模湾の未来、水族館で考え食べて楽しむ 佐々木ひろこ フードジャーナリスト 連載「グリーン&ブルー」
2023.10.02
米カリフォルニア州の「モントレーベイ水族館」をご存じの方はいるだろうか。サンフランシスコの南、風光明媚なモントレー湾の南端に位置し、年間入場者200万人というこの人気施設は、海洋研究所と多くの研究者を抱える研究機関としても知られている。1984年の開館以来、卓越した研究力と展示力で世界をリードしてきた一方で、水族館でありながら「持続可能な漁業」の推進に取り組んできたことでも有名だ。
例えば、普段食べている魚が持続可能な漁業で取られているかを判別する指標「シーフードウォッチガイド」の作成・発表がある。また、このプログラムをホールフーズやマクドナルドなど大手流通・小売企業の調達基準として導入してきたほか、この指標を下敷きに私たちの消費行動が海に与える影響を考える機会として、シェフが料理した魚料理を水族館内で楽しみながら海の持続性について学ぶ「クッキング・フォー・ソリューションズ」というイベントを2014年まで13年間続け、消費者の行動変容を促してきた。
「やっぱり、水族館の可能性は大きいんだ!」
このイベントにかつて参加した友人が、当日の写真を見せてくれた時、私は思わず声を上げた。というのも私自身、水族館は「普通は見ることがかなわない海の中を可視化できる空間」であり、海の課題をシェフたちが「伝える」ために最適な場だとずっと考えてきたからだ。
地元の海を体現した水槽を持つ水族館で、魚を「見て楽しむ」だけでなく、「知って考え、食べて楽しむ」場に転換できないかー。そう考えていた今年初め、偶然にも新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)の研究員の方から連絡をいただいた。「変わりゆく相模湾の現状を、より多くの方に知ってもらいたい」「地域の方と海の距離をもっと縮めたい」。皆さんの熱い思いに感銘を受け、イベントの共催に向け走り始めて8カ月、開催はいよいよ来月に迫る。(写真:新江ノ島水族館の相模湾大水槽)
10月15日夕、新江ノ島水族館の相模湾大水槽前にディナーテーブルをセッティングし、私たち「シェフス・フォー・ザ・ブルー」のシェフが、江の島片瀬漁協に揚がった魚でフィンガーフードを作り提供する。映像やトークも盛りだくさんだ。いらっしゃる方に、相模湾の現状と未来についてどれだけを伝えられるか、今から大いに楽しみにしている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年9月18日号掲載)
最新記事
-
フードバンク 野々村真希 農学博士 連載「口福の源」
「フードバンク」という言葉を聞いたことがあるだろうか? 通常のルートで流通できない食品を企業などか...
-
相模湾の未来、水族館で考え食べて楽しむ 佐々木ひろこ フードジャーナ...
米カリフォルニア州の「モントレーベイ水族館」をご存じの方はいるだろうか。サンフランシスコの南、風光...
-
観光業の労働力、なぜ戻らない 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 ...
観光業の人手不足が著しい。雇用人員判断DIによれば、2023年6月の雇用人員の過不足は、全産業がマ...
-
問われる給食の「チカラ」 試食会が入り口に 共同通信アグリラボ編集長...
学校給食の無償化を実施する自治体が増える中、試食会を通じて給食の意義を問い直す動きが注目されている...
-
日本水産物輸入67%減 中国8月 週間ニュースダイジェスト(9月17...
▼日本水産物輸入67%減 中国8月(9月18日) 中国税関総署が発表した貿易統計によると、中国が8...
-
人口減少時代の水道事業 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 ...
全国の水道事業が曲がり角を迎えています。過疎地域を抱える水道事業者は、給水人口の減少で事業の収益が...
-
政府備蓄米を維持し、気候変動に対処せよ 小視曽四郎 農政ジャーナリス...
世界の平均気温や海水温が相次いで過去最高を記録し、日本の夏の平均気温も125年前の統計開始以来、最...
-
岸田再改造内閣が始動 週間ニュースダイジェスト(9月10日~16日)
▼食料危機時に生産転換指示 農業基本法改正へ(9月11日) 農林水産省の有識者会議は「食料・農業・...
-
良食に最適な「豆」 安武郁子 食育実践ジャーナリスト 連載「口福の...
暑い夏といえば、生ビールでしょうか? 最近は健康志向の高まりもあり、低カロリーでプリン体がほとんど...
-
「サードプレイス」を求めて 心地よい福井県坂井市の施設」 沼尾波子 ...
人々のつながりの希薄化を背景に、社会において、家庭でも職場・学校でもない第3の居場所(=サードプレ...