「インバウンド」は歓迎されているか? 森下晶美 東洋大学国際観光学部教授 連載「よんななエコノミー」
2023.07.17
コロナ禍によって観光は大きな打撃を受けたが、今年5月に新型コロナウイルス感染症が5類へ移行されたことで国内旅行はコロナ禍以前の2019年度水準に戻り、インバウンドについても22年10月に個人旅行の受け入れや査証免除措置の再開で水際対策が大幅に緩和されたことによってマーケットは大きく回復した。
23年4月の訪日外国人旅行者数は195万人、コロナ禍前の19年度同月比で66・6%にまで回復してきている。同じ様に比べると、諸外国の国際旅行者の回復状況は欧州地域90%、アメリカ地域86%で、欧米諸国にはまだ及ばないものの、5月以降本格的な観光シーズンの到来と円安も相まってコロナ禍前のマーケット状況に戻るのもまもなくとみられる。
また、訪日外国人旅行者の消費額をみると、23年1~3月期の全体額は1兆146億円で19年度比の88.1%、1人当たりの額では163%となっており旅行者数以上に回復が進んでいる。
消費の費目別内訳(観光目的のみ)は多い順に「宿泊費」「買物代」「飲食代」「交通費」「娯楽等サービス費」となっているが、「買物代」の品目には菓子類、その他食品、化粧品、衣類、医薬品などが上がっており、買い物場所もコンビニエンスストア、百貨店、ドラッグストア、家電量販店などさまざまで、観光業以外の産業においてもインバウンドの影響は大きいことが分かる。その意味ではインバウンドの回復を待ち望んでいた業界も数多いことだろう。
しかし、インバウンドの回復や増加は本当に日本の人々に歓迎されているのだろうか?
〝入国の水際対策を緩和するとコロナが広がる〟といった論調はいささか影を潜めたようだが、マスメディアにおいてはオーバーツーリズム(観光公害)の懸念として取り上げられることが多く、「どうする〝集まりすぎる客〟 観光地とオーバーツーリズム」(NHK「クローズアップ現代」23年5月8日)のほか、「5類と円安で加速『オーバーツーリズムの脅威』」(東洋経済オンライン、23年5月14日)、「アフターコロナのオーバーツーリズム問題 外国人観光客と住民とのウィンウィン関係は可能か」(FNNプライムオンライン、23年6月8日)といった番組や記事のタイトルが目に付く。
こうした背景には、観光が経済政策や産業にとって重要であることをアピールしてきた半面、受け入れ側の住民には実感できるメリットがなく、〝よそ者〟の増加がむしろ生活環境を脅かす存在となってしまったことがある。
また、これまでの観光政策が「旅行者数」を重視してきたため、地域にお金が落ちる仕組みを十分に構築しきれず、受け入れ環境の整備も進まなかったことも大きい。
観光振興に地域の人々の存在と協力は欠かせない。特にインバウンド観光を振興するには、オーバーツーリズムへの懸念の払しょくと対策が一つの鍵になる。では、オーバーツーリズムとは何か。どうすれば防げるのか。次回のコラムで取り上げたい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年7月3日号掲載)
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