「小さな水」への挑戦 緩速ろ過「染屋浄水場」 菅沼栄一郎 ジャーナリスト 連載「よんななエコノミー」
2023.07.24

信州の梅雨空の下、プールのような「ろ過池」が13個広がる染屋浄水場(長野県上田市)を訪ねた。
信州大の中本信忠・名誉教授(81)の横にしゃがんで、水の中をのぞき込むと、大きな茶色の藻がゆらりゆらり。「藻の中で育つプランクトンなどの微生物が、水の汚れを食べてきれいにしてくれます」
染屋浄水場は大正時代に造られ、今年100年を迎えた。千曲川の支流などから水を引き、上田市周辺に住む人々の飲み水をまかなってきた。(写真はイメージ)
戦前までの日本の水道は、緩やかな流れの中で活動する微生物による「緩速ろ過」が主流だったが、高度成長期に大量の水が必要になると、薬品消毒を主体とする「急速ろ過」が増えた。今では8割近くを占め、「緩速」はわずか3%余りだ。
「『染屋』の恩恵にあずかれる私たちは幸せものです」。川田富夫さん(74)が透明の水をすくいあげて、つぶやいた。川田さんは「おいしい水を広める市民の会」の事務局長。「染屋」を拠点に40年余り「緩速ろ過」を研究してきた中本さんらと勉強会を重ねてきた。
「生物浄化法でできた水は、山から流れ出す清水そのまま。口に含むと忘れられません」
「染屋の水を広げよう」との呼びかけは3千人近くの署名を集めた。上田市内には戦後、急速ろ過の浄水場もできたが、今後も染屋を軸とする基本計画に変わりはない。ただ、「生物浄化法」はなかなか全国に広がる勢いがつかない。なぜか。
「微生物によるろ過処理では、安全な飲み水をつくれないとの誤った考えが根強い。消毒薬をたくさん使う巨大システムでなければ都合が悪い勢力も少なくないんです」。中本さんはそう言葉をつなげた。
そんな中、山梨大の風間ふたば・名誉教授が、7月初めに染屋浄水場を視察する。30年余り河川・地下水関係の研究を共有してきた学会仲間だ。
風間さんは2年前から山梨大の仲間が進める「小さな水」の研究に参加している。「現状の水道の巨大システムは、膨大な維持管理費と人口減少のダブルパンチを受けている」として「分散型の小さな水サービスが共存する社会」づくりを目指しているのだ。
染屋の「おいしい水」には「安価で持続可能な方法でつくられるからおいしい、という意味も潜んでいると思います」。
薬品を多用する「急速ろ過」はコンサル会社や土建会社がもうかるし、ある意味、経済原則のままに拡大してきた。しかし、人口減少と節水で「水道施設の4割は無駄」(菊池明敏・総務省アドバイザー)となった今、全国の水道施設は早急な広域化・施設の統合を迫られている。
厚生労働省の幹部が、退職後初めて緩速ろ過を評価したことがある。間もなく具体化する「小さな水」モデルは、既得権益を揺さぶるきっかけとなるか。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年7月10日号掲載)
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