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令和のドーナツブーム  畑中三応子 食文化研究家  連載「口福の源」

2023.07.24

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令和のドーナツブーム  畑中三応子 食文化研究家  連載「口福の源」の写真

 目下、スイーツ界はドーナツブームで沸いている。引き金になったのは去年の3月、東京・中目黒にオープンした「I'm donut?」。これまでの概念を覆す独創的なドーナツのテイクアウト専門店だ。

 店名と同じ名前の看板商品は、もちっとしながら空気をたっぷり含み、口中で溶けてなくなりそうに柔らかい。ブリオッシュ生地にカボチャを加えて成形できる限界まで水分含有率を高め、しっとり感を出したという。"生ドーナツ"と呼ばれてSNSでたちまち話題になり、今も大行列が絶えない。

 既にコンビニがこの新食感を取り入れている。ファミリーマートの「生ドーナツ(カスタードホイップ)」は、しゅわっと口溶けのよい生地でとろりとしたクリームが包んである。発売後10日間で販売数100万個突破というから、たいへんなヒットだ。(写真:味も形も多様になったドーナツ。左手前がファミリーマートで買える生ドーナツ=筆者撮影)

 生ドーナツは字義通りだと「非加熱のドーナツ」だが、スイーツの場合、なめらかでとろっとした食感のもの、材料に生クリームを使ったものに「生」の語を冠することが多い。生チョコ、生カステラ、生どら焼き、生プリンといった具合で、生がついたスイーツはたいがい流行する。背景には、日本人の強い生食嗜好(しこう)がありそうだ。

 現在、クリーム入りドーナツ、生フルーツ使用のドーナツも種類が増え、植物性材料だけで作るビーガンドーナツ、グルテンフリードーナツなど新顔も次々生まれている。

 ドーナツは明治時代に普及が始まった。1903(明治36)年に刊行された本邦初のグルメ小説「食道楽」に"簡便なお菓子"として登場して以来、多数のレシピ本に紹介されている。ベーキングパウダーでふくらます生地は手間がかからず、オーブンなしで簡単にできるので、家庭の手作りおやつとして定着した。

 ターニングポイントは1971年、当時のアメリカの2大チェーン「ミスタードーナツ」と「ダンキンドーナツ」の日本進出だった。従来のドーナツがむっちり目が詰まって素朴な味だったのに対し、アメリカからやって来たドーナツは形とフレーバーのバラエティーが圧倒的に多く、洗練されていた。両店が全国で店舗数を増やすにつれて、ドーナツは家で作るものから買うものに変わっていった。

 2000年代に入って目立つのが、新食感の開発である。先駆けが、もちもち感が新鮮だったミスタードーナツの「ポン・デ・リング」。06年に日本初出店したアメリカの老舗チェーン「クリスピー・クリーム・ドーナツ」は、ふわっと溶けていくような食感を初めてドーナツにもたらし、大ブームを巻き起こした。以降、豆乳やおからを練り込んだしっとりドーナツ、揚げも焼きもせず冷やして固めるだけのとろけるドーナツ、サクサクしたクロワッサンドーナツと続き、今日の生ドーナツに至っている。

 原材料の高騰で洋菓子の値段は右肩上がり。1個700円以上もするショートケーキが珍しくなくなった。そんな中、高くても400円台で買える手頃さもドーナツブームの理由かもしれない。

Kyodo Weekly・政経週報 2023710日号掲載)

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