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「梅酒に夢中」な女性が増加  深化する日本食ブーム(下)  NNA

2023.07.21

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「梅酒に夢中」な女性が増加  深化する日本食ブーム(下)  NNAの写真

 タイの首都バンコクで抹茶と並び、存在感を増しているのが日本の梅酒だ。市内では5軒もの梅酒専門バーが営業中。2016年にオープンした「プラムプラム」は、週末はいつも予約で満席となっている。タイでは女性を中心に果物を使ったアルコールが好まれる傾向が強く、20代のある女性が「梅酒は甘くておいしい理想のお酒」と語るなど、とりこになる人が増加中だ。梅酒を中心とする「リキュール・コーディアル」のタイへの輸出も急拡大している。

 「開業当初は手に入る銘柄が限られていたが、現在は小売店の梅酒の品ぞろえもかなり増えた。タイの梅酒市場は年々、拡大している」。そう語るのはプラムプラムの創業者兼オーナーであるパサコーン氏だ。(写真上:パサコーン氏と夫人は今年2月、和歌山県みなべ町の梅酒をそろえる2号店「プラムプラムみなべ」をオープン=6月、タイ・バンコク、NNA撮影)

 16年開業のプラムプラムは「自分の知る限り、タイで1軒目の梅酒バーだった」というが、その後、複数軒が相次いでオープンした。新型コロナウイルス流行の影響などで閉店を余儀なくされた店もあるが、現在もバンコクで5軒、北部チェンマイで1軒の梅酒バーが営業している。

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若者が集う場所


 パサコーン氏は「人が集まれる場所を作りたい」という思いから、25歳のときにプラムプラムを開業した。自身が梅酒好き、飲み会好きであったことから「梅酒が人と人をつなぐ触媒になるかもしれない」と考え、タイで手に入る梅酒を集めて紹介する「居酒屋テイストの梅酒バー」を開いたという。

 店は商業地区サトーンの路地裏に立地。「鍛高譚の梅酒」といった大手の梅酒から、日本一の梅の産地である和歌山県みなべ町の少量生産品まで数十銘柄を常時取りそろえ、日本食と創作メニューのつまみ・食事も提供する。

 梅酒の値段は1杯平均240バーツ(約1000円)、1本(720ミリリットル)2000バーツ前後と決して安くないが、開業から1年で週末の予約が埋まる人気店となった。パサコーン氏によると「性別では女性、年齢では30代半ばの客が多く、3割が常連客」だという。6月の金曜の夜に訪れると、この日も店は予約で満席。初めて来店したという20代のカップルはテイスティングセット(3銘柄を各1杯、390~690バーツ)を楽しみ、常連のグループ客はトウガラシ入りの「一本義 吟香梅 般若刀 梅酒」をボトルで入れて会話に花を咲かせていた。

 焼酎に日本酒、ブランデー、ジンなどベースとなるアルコールがさまざまで、ひとくくりに梅酒といっても味や香りが異なることも大きな魅力。パサコーン氏は「タイで梅酒が受ける自信はあったものの、ここまで人気が広まるとは思わなかった」と笑顔を見せる。

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(週末は予約で満席となるプラムプラム。常連客は小売店では手に入らないレアな梅酒を求めてやってくる=6月、タイ・バンコク、NNA撮影)

果実酒が受けるお国柄


 酒類の中で特に梅酒の人気が高い背景には、タイ人消費者、特に女性の嗜好(しこう)があるようだ。

 NNAが20代のタイ人女性2人に飲酒の習慣について聞いたところ「フルーツのお酒が好き」「自分は飲酒しないが、周囲の友人はいつも果物のお酒を飲んでいる」と回答。プラムプラムに来店していた20代女性、アムさんも「12年ほど梅酒にはまっている。甘くて飲みやすくて、私の理想のお酒」と語るなど、タイ人女性が「フルーツを使った甘いお酒が好き」であることがうかがえる。

 アムさんは「家でも梅酒をたしなむ」という。自宅で飲む梅酒は、地場流通大手セントラル・グループの高級スーパーマーケット「トップス」やパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)が展開する日本ブランド専門店「ドンドンドンキ」で購入していると話した。

 タイのドンドンドンキの酒類担当者はNNAに対し「タイ人経営の梅酒バーが増え、特に若者の間で梅酒がはやりだしているようだ」とコメント。日本の梅酒やフルーツリキュール、缶チューハイなどの品ぞろえをさらに充実させていく考えだと述べた。

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(バンコクのトンロー地区にある「ドンドンドンキ」の梅酒売り場。チョーヤ梅酒の人気が高いという、NNA撮影)

和歌山の梅農家から数百本


 プラムプラムは今年2月、みなべ町の梅酒を中心にそろえる2号店「プラムプラム・ミナベ」をチャトゥチャック地区で開業した。パサコーン氏は、みなべ町で梅酒を生産する有本農園の代表、有本陽平氏と17年に出会ったことをきっかけに同町の梅農家と交流を開始。梅の収穫や梅酒の仕込みの時期に何度もみなべ町に赴き、梅農家の手仕事に感銘を受け、みなべの梅酒に特化した店を開きたいと思うようになったという。

 有本農園は13年に梅酒の生産を始めた。焼酎ベースの濃厚な完熟梅酒「Plumity Black(プラミティ・ブラック)」と日本酒ベースで白ワインのように飲める「Plumity White(プラミティ・ホワイト)」の720ミリボトルを年2500~4000本生産。タイ、香港、中国、台湾、オーストラリア、フランスの6カ国・地域に輸出しており、輸出が売り上げに占める割合は35%に達している。ここ12年の最大の仕向け先はタイだ。

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(和歌山みなべの梅農家がつくる「プラミティ・ブラック」(左写真の中央のボトル)が一番人気。3銘柄を試せるテイスティングセット(右)もよく出る=6月、タイ・バンコク、NNA撮影)

 タイ向けは、プラムプラムが総代理店を務める。パサコーン氏は数年かけて酒類輸入のライセンスを取得し、20年以降にプラミティの輸入を開始。有本氏はNNAに対し「年数百本はバンコクに出している」と語り、「今後さらに伸ばせると期待している」と意気込んだ。

 パサコーン氏は「プラミティは店で一番人気だ」と話す。数十本単位で仕入れても、ボトル売りする分は数日で完売する状況。6月末時点でホワイトは、グラスでの提供用に店が確保していた分もすべて空き、約1カ月後の再入荷待ちとなっていた。

 このほか、みなべ町の梅農家が立ち上げた「みなべクラフト梅酒」ブランドの各銘柄も人気。6月末の時点でジンベースの梅酒「Yii(イー)」などが品切れだった。

輸出額、5年で6倍に


 バンコクで梅酒バーが誕生して以降、日本からタイへのリキュール・コーディアルの輸出は急拡大している。日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所によると、18年に1億100億円だった輸出額は20年に2億円近くに達し、22年には6億円を突破。この5年間で6倍超に膨れ上がった。ジェトロバンコク事務所は、梅酒人気の拡大が輸出増をけん引していると分析する。

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 パサコーン氏が「輸入するだけで値段が日本の23倍になってしまう」と語るなど、梅酒は価格の高さがほぼ唯一の課題だ。タイで梅酒同様に人気の高い韓国のフルーツ焼酎(ソジュ)が360ミリリットル入りで1本80~130バーツほどであるのに対し、梅酒は小売店でも720ミリリットル入りが500バーツ以上と、2倍以上の値段で売られている。

 ただ、近年続く高級志向の高まりや所得の上昇を鑑みれば、タイでの梅酒の販売・消費にはまだまだ伸びしろがあるといえる。さらにバンコクで広がる抹茶や梅酒のブームは、農業体験や酒蔵見学といったインバウンド(訪日客)の多様化にもつながっていきそうだ。(NNA

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