酪農危機、消費者ができることは 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連載「グリーン&ブルー」
2023.07.31
酪農が危機に立たされている。需要減少と生産コスト高騰という不運が重なった。まず、コロナ禍で業務向けの生乳の需要が減った。牛乳や乳製品は家庭や学校で消費されるイメージが強いが、商業・観光施設など業務需要も少なくない。これらがコロナ禍で需要を減らした。一方、多くを輸入に頼る飼料代がウクライナ紛争や円安で高騰し、酪農家の経営悪化を招いた。(写真はイメージ)
在庫が積み上がった脱脂粉乳を減らすため、政府は支援策を出し、酪農家自身も拠出した。乳業メーカーも需要が低迷する中、生産者乳価を引き上げるなどの努力をしてきた。関係業界や自治体は「牛乳を飲んで応援しましょう」というキャンペーンを張った。キャンペーンに呼応した消費者は多かったことだろう。ただ、胃袋には限りがあり、普段飲む量の倍ほどの牛乳、乳製品を日々消費できるわけではない。「消費以外で応援できることはないのか」と感じた人は少なくなかったはずだ。
2023年5月31日、農や食に関わるメディア関係者が集う「農政ジャーナリストの会」主催の研究会が行われた。この日のゲスト講師は、新潟市で酪農と稲作を営むフジタファームの藤田毅社長だった。藤田さんは、飲むこと以外に、消費者が酪農を応援する方法を示唆してくれた。
同ファームは、見渡す限り田んぼに囲まれた地にある。藤田さんが代表を務める「米工房いわむろ」も同じ場所にあり、主食米に加えて飼料作物を生産し、牛に与える。牛からの糞尿はたい肥にして水田に戻すという循環型農業を行っている。地域内の資源を使うことで、地域外から資材を運ぶ必要がなく、二酸化炭素の排出量も減る。
冬になると、完熟のたい肥を水田にまく。これらが田んぼに養分となるのだが、新潟のような農業県であっても、「たい肥の臭いがきつい」というクレームが時折来るという。そこで、22年はたい肥車に「SDGs実践農業」というプラカードを掲げて走らせた。その効果なのか、クレームは1件もなかったそうだ。このエピソードを例に藤田さんは「消費者に、農業への理解を深めてもらうことが持続的な酪農にとって不可欠」と語った。
これは、畜産農家が共通して抱いている思いであろう。畜産家は、糞尿をはじめとする環境対策に莫大なエネルギーを費やす。新たな畜舎建設ともなれば、地域の理解を得るのは至難の業だ。これらは、酪農を含む畜産業を継続・発展させる上で課題となっている。少なくとも、たい肥の散布が食料生産の一環であり、その恵みを消費者は受け取っていることを理解できれば、事態は変わる。生乳が過剰な時に飲んで応援する以上に、日常的に畜産を応援する機運を育んでいくことのほうが、生産者への応援になるのではないか。
酪農への関心が高まっている今だからこそ、国内、そして各地域に畜産業が存在する意義を問い直すきっかけにしたい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年7月17日号掲載)
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