花粉の少ないスギばかりにしていいのか? 赤堀楠雄 林材ライター 連載「グリーン&ブルー」
2023.07.24

木を植えて育てる山づくりは、苗木を育てることから始まる。種をまき、芽生えを確認し、成長の度合いを観察する。苗木を育てていると、日々、命を感じるのではないだろうか。
「とてもかわいらしいですね。春は特に毎日変化があって、仕事をしてても苦になりません。いい季節だなーと思います」
ある組織で苗木づくりを担当している女性は、心底楽しくて仕方がないという様子で話してくれた。この仕事を始めてまだ2年ほどだが、「天職になるといいな」とほほ笑む。
日本林業の主要樹種はスギである。昔からそれは変わらず、スギは建築用材としてだけでなく、田畑の土留めや桶樽(おけたる)の材料などとして日本人の暮らしや文化を支えてきた。国内に広く生育し、加工もしやすい特性から重宝された。(写真:芽生えたばかりのスギ=筆者撮影)
だが、花粉症が社会問題となっている今、スギは悪者扱いだ。政府は5月30日に「花粉症対策の全体像」を閣議決定し、花粉を出している既存のスギ林を大々的に伐採して花粉の少ないスギに植え替える方針を打ち出した。ゆくゆくは生産されるスギ苗木の9割以上を花粉の少ない品種にすることも目指す。
過去にスギを植え過ぎて日本の森林の姿を変えてしまったことは反省すべきだ。だが、すべてのスギを花粉が少ない、すなわち子孫を残す能力に劣る品種にしてしまうのが正しいことであるかのように吹聴されている現状には違和感を禁じ得ない。少なくとも、都市近郊ではない現場なら、昔から植えられてきた旧来の品種を植え育てることも認めるべきだ。
需要の保証がないのに、伐採計画を先行させるのも疑問だ。供給過多になれば価格が暴落する恐れがある。
花粉症は大気汚染も一因との指摘もある。電気自動車の普及や公共交通の利用で大気汚染が改善されれば、花粉症が下火になるかもしれない。その可能性は検証されているのだろうか。
くだんの女性に花粉の少ないスギをどう思うか尋ねてみた。女性は「あんまり育てたくはないんです...」と小さな声で答えた。
そうだろうな、と私も思った。女性が願っているのは、自分が育てた苗木が山に植えられ、元気に大きく育つことなのだろうから。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年7月10日号掲載)
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