抹茶カフェ人気に広がり 深化する日本食ブーム(上) NNA
2023.07.20

タイの首都バンコクで日本食ブームが深化している。約2400店の日本食店がひしめく中、「抹茶」と「梅酒」を専門に扱う店が増え、活況だ。「よりユニークな日本食文化」を求める消費者が増えたことや、ソーシャルメディアでの体験共有が日常化したことが背景にある。NNAでは、このブームを2回に分けて紹介。1回目は、市内のあちこちで見かけるようになった「抹茶カフェ」の人気の秘密や、百貨店や大手飲料メーカーにも広がる抹茶のムーブメントを掘り下げる。
「MTCH」「SO! MATCHA」「ChaEn」「Fuku Matcha」「Tanuki 261 cha&cafe」――。これらはすべて、バンコクにある抹茶メニューに特化したカフェだ。抹茶ブームの盛り上がりは、日本からタイへの緑茶(抹茶含む)の輸出額の伸びにも現れている。日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所によると、昨年の輸出額は2016年比2倍の6億円超となった。
「抹茶カフェ巡りが趣味の一つ」と語るバンコク在住の20代男性はNNAに対し「抹茶を使ったドリンクは口当たりと味わいがソフトなところがいい」と語る。お気に入りは市内に3店舗を構えるMTCH。オートミルク(オーツ麦でできた植物性ミルク)を使用した抹茶ラテなど「他店では見かけないメニューがおいしい」という。(写真上:MTCHはじめ多くの抹茶カフェが客の目の前で抹茶をたてる。目にも楽しいサービスが好評だ=6月25日、タイ・バンコク、NNA撮影)
面前で茶をたてる、体験に価値
MTCHのオーナーであるソラウィット氏は抹茶好きが高じ、4年前に高級住宅街アーリーで店を開いた。昨年10月には、首都圏鉄道「BTS」のアソーク駅付近に3号店となるスクンビット店を開業。NNAの取材に対し「もともとタイ人は日本の食べ物や文化、芸術が大好き。抹茶はタイ人の口に合うほか健康への効果も知られるようになり、どんどん人気が高まっている」と語る。
ソラウィット氏は茶農家の栽培や加工の現場まで何度も足を運び、宇治(京都府)と八女(福岡県)の抹茶を厳選。定番の各種抹茶ラテ(150バーツ=約620円から)に、抹茶とゆずソーダをブレンドした「スパークリングゆず」(130バーツ)といった創作メニューまでをそろえる。
(MTCHのソラウィット氏=左=は、抹茶文化を広めるワークショップを不定期で開催。20代の男女が興味津々で話に聞き入る=6月25日、タイ・バンコク、NNA撮影)
ドリンクは注文を受けてから1杯1杯、客の目の前で抹茶の粉を茶こしでふるいにかけ、茶せんでたててつくる。「もともと高級な抹茶をきめ細かな作法で提供することで、顧客に『プレミアムな価値』を感じてもらっている」とソラウィット氏。クリームのようにとろみのついた濃厚な抹茶が牛乳やソーダに混ざっていく様も目に楽しく、新しもの好きな若者が押し寄せているのにもうなずける。
店には客と食事宅配サービスの配達員がひっきりなしに訪れるが、販売数量は3店舗ともあえて1日150~200杯に制限。品質と味を保つためで、店員の教育にも時間をかけている。
ソラウィット氏はワークショップやソーシャルメディアを通じて、抹茶の歴史やたて方、味わい方を広めることにも注力。抹茶はまだ「ニッチな市場だ」と認めつつ、「コーヒーを飲む習慣を抹茶に変えたという消費者も出始めており、これからますます成長・注目されていくはずだ」と期待感を示した。
SNSでコト消費が活発に
チュラロンコン大学ビジネススクールのクリティニー・ポンタナラート助教(マーケティング専門)は「素材や製法を厳選した『クラフトドリンク』の流行や、ソーシャルメディアの浸透が抹茶ブームの背景にある」と分析する。同氏によるとタイでは7~8年前から「スペシャルティコーヒー」やクラフトビールを含むクラフトドリンクが人気を獲得。抹茶もこの流れをくむ飲料だ。
ソーシャルメディアによって「自分が楽しんでいる体験を周囲の人に見せたい」という欲求がかきたてられ、タイ人消費者がより優雅な「コト消費」(体験に価値を見いだす消費)を楽しむようになったことも大きく影響。加えて「基本的な日本食は経験済み」であるタイ人消費者の「特別で上質でストーリー性のある日本の何か」を求める心が、抹茶需要を生み出していると分析する。
抹茶は訪日旅行時に容易に目に入る象徴的な名物。優雅で独特な茶道具の見た目がタイ人の心をくすぐることなども、抹茶人気を後押ししているとの見方だ。
実際、バンコクの抹茶カフェはMTCH以外にも、客の目の前で茶せんを使って抹茶をたてる店が多い。客はスマートフォンを掲げてその様子を写真や動画に収める、というのがお決まりの風景となっている。
モールで抹茶フェア続々
抹茶人気は大手ショッピングモールの催事からも明らかだ。チャオプラヤー川沿いの大型複合施設「アイコンサイアム」と市中心部の大型モール「セントラル・ワールド」は6月から7月頭にかけて「抹茶ラバー」と題したフェアを相次いで開催した。
アイコンサイアムでは1カ月にわたり、中核テナントのサイアム高島屋に入居する「CHAYA&CO.」「WABI CHA」「ロイズ(ROYCE')」など10店超が参加して抹茶ドリンクや抹茶スイーツを販売。セントラル・ワールドでは「辻利茶舗」「麻布茶房」「Hannari Cafe de Kyoto」など28店がイベントスペース「セントラル・コート」に集結し、自慢の抹茶メニューを売り込んだ。
アイコンサイアムのフェアは平日の昼でも活気があった。20~40代の女性客はNNAに対し「大好きな抹茶プリンを買いに来た」「抹茶の苦みが好き」「健康のために抹茶粉末を購入した」などとコメント。店側からは「抹茶を使った商品のプロモーションはいつも反響が大きい」(ロイズ)、「繰り返し足を運んでくれる客が多い」(ChaEnティー・エクスペリエンス)といった声が聞かれた。
(アイコンサイアムの抹茶フェアは、平日も行列ができる盛況ぶり=6月29日、タイ・バンコク、NNA撮影)
地場大手も抹茶商品
大手メーカーの間でも、抹茶商品で売り上げを伸ばそうとする動きが出始めている。タイの大手茶飲料メーカー、イチタン・グループは7月、静岡県産茶葉を使ったペットボトル入り茶飲料「静岡茶」シリーズから抹茶入りの新商品「静岡玄米茶ウィズ抹茶」を発売した。
抹茶入り新商品の発売に先立ち、サッカー元日本代表の三浦知良選手の次男でタイでも知名度のある総合格闘家、三浦孝太氏を同シリーズの広告塔に起用。商品購入者に抽選で静岡旅行をプレゼントするなど、大々的なプロモーションを行っている。イチタンは抹茶入り新商品などを起爆剤として、今年の売上高を前年比15%増の73億バーツに引き上げる計画だ。
(イチタンの抹茶入り玄米茶は7月から「セブンーイレブン」などで販売を開始した。タイでも人気の格闘家、三浦孝太氏が広告塔を務める、NNA撮影)
イチタンの茶飲料以外にも、バンコクの大手コンビニエンスストアでは抹茶味の菓子類が複数見られるなど、抹茶を使った商品は増え続けている。
次回は若者が集うバンコク市内の梅酒バーを取材し、梅酒人気の秘密に迫る。
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