技術立国日本はどこへ?少ない非製造業の研究者 藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員 連載「よんななエコノミー」
2023.07.10
名目賃金が上昇に転じ、わが国経済にもようやく回復の兆しがみえてきました。しかし、このまま安定的な成長軌道に乗ることができるかといえば、必ずしも前途は明るくありません。
筆者が感じる最大の懸念は、わが国産業界で、新しいものや新たな価値を生み出す力が他の主要国に比べて弱くなっているとみられることです。図は、過去10年間における各国の産業界に所属する研究者数の変化を表しています。横軸に製造業、縦軸には非製造業をとり、それぞれの研究者数を示しました。
わが国を除く主要国はおおむね右上方に移動し、製造業、非製造業を問わず、研究者数が大きく伸びています。一方、わが国は企業に所属する研究者がほとんど増加していません。
また、わが国の企業研究者は、極端に製造業に偏っていることも分かります。右上に伸びる対角線は、製造業と非製造業に所属する研究者が同数であることを意味します。この対角線から下方に最も乖離(かいり)しているのがわが国で、製造業に比べて非製造業の研究者の数が極端に少ない状況にあります。最新データの2019年には、非製造業の研究者数が企業研究者全体の13%にとどまりました。
製造業における研究者の集積は、わが国にこれまで富をもたらしてきた、いわば遺産とみることができるかもしれません。一方、非製造分野における研究・開発力の弱さは、今後の経済成長の足かせとなる可能性があります。非製造業に所属する研究者の多くは、国を問わず、近年の成長産業ともいえる「情報通信業」「金融・保険業」「専門・科学技術サービス業」に所属し、各国の経済をけん引しています。イギリスやフランスは研究者の過半数が非製造業に属し、アメリカもおおむね半数となっています。アメリカの非製造業の研究者数は、わが国の10倍近い水準です。
近年、改めて私たちの暮らしに利便性をもたらす新たなサービスや技術をみると、外国企業が提供するものが増えていることは明らかです。これは、わが国企業が新たな価値を生み出すことができず、外国企業が提供するサービスのユーザーになるケースが多いことを意味します。成長が期待される分野で研究者が増えていない日本は、今後も新たな価値を創出・提供する力で劣り、海外発のサービスや技術の恩恵に預かるお客様という立場から脱することが、ますます難しくなっていくでしょう。
人口減少が進むわが国においては、研究・開発によって新しい技術やサービスを、世界に先駆けて提供し、それによって経済の活力を維持・向上させるべく、研究者の層に厚みを増し、世界に打ち勝つ企業を多数生み出していくことが必要なのです。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年6月26日号掲載)
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