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福島県富岡町の藍染 「おだがいさま工房」  沼尾波子 東洋大学教授  連載「よんななエコノミー」

2023.08.07

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福島県富岡町の藍染 「おだがいさま工房」  沼尾波子 東洋大学教授  連載「よんななエコノミー」の写真

 福島県富岡町は、見事な桜並木で知られる。だが、この2キロ以上も続く桜のトンネルを有する「夜の森地区」は、2011年の東日本大震災・東京電力福島第1原発事故以降、立ち入りや居住が制限されてきた経緯がある。

 今年4月、特定復興再生拠点区域の避難指示解除によって、夜の森地区の居住制限も解かれ、帰還可能となった。富岡町内には依然、帰還困難区域も残るが、除染作業を続けながら復興に向けた取り組みが進められている。

 「おだがいさま工房」は、そんな夜の森地区にある。「おだがいさま」は福島県の方言だ。元々この工房は、社会福祉協議会の事業として127月に始まった。富岡町民の避難先の一つ、同県郡山市に開設されていた「おだがいさまセンター(富岡町生活支援センター)」の元にこの工房は設立された。(画像はおだがいさま工房のホームページ)

 原発事故後に住み慣れたふるさとを離れ、新たな環境で生活を送る人々には、生きがいの創出やコミュニティーの再生が必要だったという。仮設住宅では、農作業もできず、特に高齢者はやることがない。楽しみながら雇用と仕事の創出につながる活動ができないかと考え、染め物教室が始まった。この取り組みは人々の心を支え、つないできた。

 その後、いわき市には織り専門の工房も立ち上がり、人々のつながりをつくってきたが、15年に社協の事業から離れることとなり、その後、志のある人たちが独立して活動を続けてきたという。

 工房は、郡山市から三春町へ、そして楢葉町へと拠点を移しながら活動を続けて今年、富岡町に戻った。当初は30人ほどのメンバーで活動していたが、次第に人数が減少し、今は代表である小野耕一さん、繁子さん夫妻が取り組んでいる。

 藍染の作品は、見事なものだ。当初は、デザインも染付もまったくの素人。うまく下地のカットもできるか分からないというところから始まったというが、きめ細かな手仕事を重ね、織りや仕立ても手掛けており、見事な作品がつくられている。作品の一つは常磐富岡インターチェンジ開通式で記念品として用いられたという。

 富岡町の桜を使って染められる、そんな富岡で工房をやりたいという思いでここまでやってきた。そう語る小野さんは、富岡の自然を愛し、草花を原料に美しい染物をつくる。だが、町にはなかなか人は戻ってこない。

 工房には京都の染織家、志村洋子さんのメッセージが掲げられていた。繭を紡ぐ。草や葉、茎、根で染める。そんな自然とのつながりを楽しむ心がそこにはある。おだがいさまの心で紡いでいく活動の広がりを祈りたい。

Kyodo Weekly・政経週報 2023724日号掲載)

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