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卵の流通に異変  自給率低下の恐れ  アグリラボ所長コラム

2023.05.19

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 大手食品メーカーのキユーピーが業務用にブラジル産の卵の輸入を始めた。95%の高い自給率を維持してきた鶏卵の流通が転換する節目になるだろう。

 キユーピーが卵の輸入に踏み切った理由は、鳥インフルエンザに伴い採卵養鶏が大量に殺処分されたことだ。スーパーなどの店頭での影響を緩和するため、比較的サイズが小さい業務用の卵を家庭用に振り替えた結果、大手食品メーカーではプリンなど一部製品の出荷制限、外食産業では一部のメニューの停止に追い込まれている。

 業務用の中でも、卵を割った状態に加工した液卵の不足は著しい。殻付きの卵と比べて輸送や保存が簡易で卵を割る手間や殻の廃棄が不要なため、食品メーカーや外食産業では幅広く使われている。

 キユーピーは鳥インフルエンザが発生していないブラジルから殻付きの卵を冷蔵して輸送し、国内の工場で液卵に加工し、希望する取引先に販売する。液卵の専業最大手であるイフジ産業(福岡県粕屋町)も、3月からブラジル産の輸入を始めた。同社は年間約12億個の卵を扱っており、現在の輸入量が続けば8%程度がブラジル産になるという。

 殻付きで長距離輸送するコストや、ブラジル産卵の相場の高騰で国産より割高となり、両社は顧客に対する供給責任を最優先した。採算上のメリットがないため、鳥インフルエンザが終息して飼養羽数が回復すればブラジルからの輸入は減る可能性が高い。

 ただ、ブラジルからの輸入を一時的な緊急措置と断じるのは早計だ。一度開拓した輸入ルートはすぐにはなくならない。野菜類は、国産の不足時に冷凍野菜を輸入するたびに海外での契約栽培が増えて自給率が低下している。

 新型コロナ禍やウクライナ危機による物流の混乱に対応するため、食品業界はサプライチェーン(供給網)の複線化を急ピッチで進めており、調達先の多元化が課題になっている。来季以降に鳥インフルエンザの流行が再発する恐れもある。関税や輸送費で多少割高になっても、安定的な供給のために輸入卵は無視できない存在だ。輸送しやすい液卵に現地で加工して輸入する経営戦略もあり得る。

 これまで、卵の自給率は約95%を維持してきた。輸入のほとんどはハムやソーセージのつなぎなどに使われる卵白粉、パンや菓子に使われる卵黄粉など加工原料用の粉卵で、国産の卵と直接競合することはなかった。調達先もオランダ、イタリア、米国など主に欧米に限られていた。

 採卵鶏の飼料を輸入に依存しているものの、国内の卵の生産・流通は安定していた。しかし、大手メーカーが殻付き卵の新たな輸入ルートを開拓したことで、卵の調達先の多元化が加速し、長い目でみると自給率は低下に向かう可能性がある。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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