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地方創生2.0に期待すること  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員  連載「よんななエコノミー」

2025.01.20

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地方創生2.0に期待すること  藤波匠 日本総合研究所調査部上席主任研究員  連載「よんななエコノミー」の写真

 9月の自民党総裁選で石破茂新首相が選出されて以来、地方創生が再び政治課題の俎上(そじょう)に載ってきました。地方創生戦略は、10年前の戦略策定時の初代担当大臣であった石破氏にとって、思い入れのある政策です。地方創生交付金の増額を公約とする地方創生2・0を訴え、今回の自民党総裁選を戦いました。

 首相就任後に開いた閣僚会議においても、交付金の倍増とともに、①安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生、②東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散、③付加価値創出型の新しい地方経済の創生、④デジタル・新技術の徹底活用、⑤「産官学金労言」のステークホルダーの連携など国民的な機運の向上ーを柱とする戦略の基本的考え方を打ち出すなど、相当力が入っている印象です。

 ただ、首相の想(おも)いだけでは、地方の活性化は実現できません。10年前に石破大臣(当時)が陣頭指揮を執った地方創生でも、東京一極集中の解消が主たる課題とされ、地方自治体を政策立案・実行者とする仕組みのもと、①地方において安定した雇用を創出する、②地方への新しいひとの流れをつくる、③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえるーなど今回と類似の方針が打ち出されました。

 しかし、結果はどうだったでしょう。地方創生が動き出した2015年以降、逆に人と産業の東京一極集中は加速してしまったように感じられます。東京圏の転入超過数は、コロナ禍を除けば、戦略策定時より多い状況が続きました。

 そうした中で目立つ地方自治体の取り組みは、移住促進策です。移住希望者に住宅取得や移住行為そのものに支援金を提供し、選ばれる地域になることでした。最近はその動きが過熱し、ふるさと納税で集めた資金を活用して、移住希望者に数百万円を給付する自治体まで出てくるなど、ほとんどの地方自治体で、大なり小なり移住者獲得に力を入れています。移住ブームの到来ともいわれ、給付金の額は右肩上がりです。

 ただ、移住支援政策が東京圏の転入超過数を抑制する効果は目に見えるほど大きくないのが現状です。多くの自治体で年々移住者が増えたかのような報告がなされていますが、それらが各地の転入超過数や転入者数に影響を与えているエビデンスは、一部の自治体を除けば見いだせていないのが実情です。東京圏の転入超過数は景気との連動性が高く、地方自治体の取り組みとはほとんど無関係に、景気の良いときには増え、景気が悪くなれば減る、を繰り返しています。

 これまでの地方創生10年間の教訓として、人口の移動は、主として雇用機会の偏在によって生じることが改めて明らかとなりました。ばらまき型の移住促進策では、ゼロサムゲームに陥りがちな人口獲得競争に地方自治体の資源が浪費されてしまうことが懸念されます。

 石破首相に期待するのは、前回の地方創生戦略よりも明確なビジョンを持った地域産業戦略です。公約にあった2倍にする地方創生交付金がそのまま移住者獲得のための財源となることを防ぎ、各地で優良な雇用の創出に活(い)かされていくことが望まれます。

(Kyodo Weekly・政経週報 2024年12月30・2025年1月6日合併号掲載)

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