生きる力学べる港町 中川めぐみ ウオー代表取締役 連載「グリーン&ブルー」
2025.01.06
「食を通して『生きる力』を学ぶ交流学習」。福井県小浜市の阿納(あの)という総人口が100人にも満たない地域が掲げるコンセプトだ。(画像:ブルーパーク阿納のホームページより)
阿納は若狭湾に面した港町だが、少子高齢化で漁業者の数が激減し、漁獲量も30年間で半分以下となっている。近年では真鯛養殖などに力を入れるが、それだけでは活気が戻らない。何か方法がないかと住民たちが知恵を絞り、2007年にスタートしたのが海の体験交流施設「ブルーパーク阿納」だ。
ブルーパーク阿納には、観光客が気軽に釣りを体験できる設備が整っている。陸続きの海上釣り堀に、近くで養殖した真鯛を放流し、さおなどの道具も完備。初心者でも簡単に釣りを楽しめ、これだけでも都心から訪れる人には魅力的だ。しかし今回お伝えしたいのは、お子さん(学校)に向けた教育旅行のコンテンツ。
冒頭に書いた「生きる力を学ぶ交流学習」という言葉。阿納が提供する教育旅行は、まさにこれを体現している。教育旅行で訪れるのは中学生が多く、大体が1学年(最大150人ほど)という単位。1クラスがさらに男女に分かれて港近くの民宿に分散して宿泊するのだが、この宿がおのおのホストファミリーの役割となるのだ。
初日、各宿でいらっしゃいと迎えられた子どもたちは、カヤックや漁船でのクルージング、養殖魚の餌やりなどに出かけるが、誘導やサポートをしてくれるのがホストファミリーの誰か(息子)だったりする。非日常体験で打ち解けた後は、宿に帰って夕食をいただき、そのまま就寝時間までホストファミリーも交えてわいわいお話。
翌朝は宿で朝食をいただいたら海上釣り堀へ向かい、全員が昼食用の真鯛を自分で釣りあげる。ここでもホストファミリーや施設の方がしっかりサポートしてくれるので、これまで昼食抜きになってしまった子どもはいないそう。
釣った真鯛は併設された調理施設で、これまた自らお刺し身と塩焼き作りにチャレンジする。丸魚に触ることさえ初めての子が大半だが、近所のお母さん方が丁寧に指導してくれるから安心だ。分かりやすいように紙芝居形式の説明書を配置したり、左利きの子ども向けの指導があったりと、細やかな心遣いに感動してしまう。
こうして「自ら命を取り(釣り)、命を食に変え(捌(さば)き)、食す」という一気通貫を、温かな交流やサポートのなかで体験できることは、子どもたちのかけがえのない学びとなるだろう。
1泊2日という短い時間だが、ホストファミリーと別れる際には泣き出す子どももいるという。便利になった都心の生活で、便利さの代償のように希薄になった「命」や「交流」という価値が、この体験には詰まっている。
港町で育まれ続ける"漁業"という素晴らしい営み。ここにプラスαの価値が付いた、一つの素敵な事例を見た。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年12月23日号掲載)
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