活用したい坂道の空き家 移住で「佐世保ヒルズ族」に 陣内純英 西海みずき信用組合理事長
2023.03.27

長崎県佐世保市は、長崎市と同じく、斜面地に家が建ち並ぶ。その代表格、佐世保駅前の小高い丘は、経済界の重鎮たちのお屋敷街だ。しかし、近年、この周辺も、特に車の入らない家は空き家が目立つ。車が入らない家は買い手がつかないという先入観が支配している。
不動産業者は、売れる当てのない家の間取り図を作成し、写真を撮ってレントロール(賃貸借条件の一覧表)を作る手間はかけない。だから、こうした空き家は売買市場にも出てこない。(写真:佐世保駅前の坂道の街並み=2023年1月、筆者撮影)
だが、駅前の坂道の空き家は、東京に長く住んでいた経験からすると、車が入らなくても十分価値があるように思える。なんと言っても繁華街に近い。東京メトロ大手町駅で東西線から千代田線に乗り換える程度の距離だ。坂道なので30㍍ほどの高低差はあるが、地下鉄の混雑時に階段を上り下りしてきた人間には大したことではない。
しかも、東京にはない素晴らしい眺望。眼下に市街、港、艦船、造船所のクレーン、遠くは海が見渡せる。きっとグローバルな視野と大志を持った子が育つだろう。高台にある小中学校も坂道を上がればすぐにあり、広さも子育て世代にピッタリの物件が多い。
子育てが終わり足腰が弱る前まで、20年以上は住める。リノベーションとブランディングで家の質を高め、不動産業者が十分な仲介手数料を得られる値付けができれば、コマーシャルベースに乗り、売買が成立するはずだ。厄介ものの空き家群が、地域の素晴らしい財産に変貌する。
便利で眺望のいい空き家以外にも、多彩な水産物に代表される食の豊かさ、アメリカンな街の雰囲気など、佐世保は魅力にあふれた街だ。働く場所に制限のないビジネスマンはぜひ、家族を連れて坂道の空き家に移住し「佐世保ヒルズ族」になってほしい。
さて、坂道の空き家は、その価値が過小評価されている今、売り手さえ見つければ、驚くほど安価で手に入る。最近、それを地域の居場所として活用するプロジェクトが動き出した。
子ども食堂を運営するお母さんたち、近所のお医者さんや福祉関係者、大学の先生・学生など賛同者が多く集まり、草刈りやDIYをした上で、2月には最初のイベントが開催された。町内の高齢者、子どもたち、学生など100人以上が集まり、アジアからの留学生が振る舞うエスニックカレーや餃子に舌鼓を打った。
西海みずきもその隣の空き家を大小2軒取得し、地域交流拠点などとして活用していく方針だ。大きいほうは、ワークショップや子ども食堂、カフェなどとして活用し、小さいほうは、佐世保ヒルズ族体験住宅にして、都会の子育て世代などに利用してもらおうと考えている。坂道の家の真価を発揮できる楽しい場所になるはずだ。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年3月13日号掲載)
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