下戸も取り込む新潟の蔵元の挑戦 青山浩子 新潟食料農業大学准教授 連載「グリーン&ブルー」
2024.03.11
日本酒のメッカ、新潟県には88の蔵元がある。全都道府県の中で断トツの数だ。そんな蔵元も近年は個性を発揮している。尾畑酒造(佐渡市)は廃校となった小学校を改築し、酒づくりに関心のある人を国内外から呼び寄せて実践を学ぶ「学校蔵」を営む。島内の再生エネルギーのみで酒を造る研究も大学と組んで始めた。(写真はイメージ)
「八海山」で有名な八海醸造(南魚沼市)は、工場新設を機に魚沼の地が持つ魅力を知ってもらおうと、飲食・物販施設を併設する「魚沼の里」を運営している。酒類や麹(こうじ)を使った加工品などを販売する一方、パンや和洋菓子など日本酒とは縁がなさそうな商品も扱っている。大学のゼミ生と訪れた際、同社広報担当者から「さまざまな切り口から八海醸造を知ってもらうきっかけになれば」と施設の位置づけを説明された。
"よい酒を醸し、世に出す"という枠にとらわれず、蔵元が多種多様な事業を行っている背景にあるのは、酒類の需要低迷だ。国税庁によると、1人当たりの酒類の消費量はピークだった1994年当時の4分の3まで減った。さらに、これまで飲酒市場をけん引してきた男性若年層の酒離れは深刻だ。筆者もコロナ禍を経て、学生たちと飲む機会を持つようになったが、お酒を飲む学生は少ない。国民健康・栄養調査(厚生労働省)の年代別の飲酒習慣率(週3日以上、飲酒日1日当たり1合以上飲酒する人の比率)の推移をみると、20代男性は34%(1999年)から12.7%(2019年)へ、30代男性は48.8%から24.4%へと半減した。「飲む」という学生の嗜好(しこう)もサワーやカクテルなど甘いお酒に偏り、日本酒には目もくれない。
これらは農業にも影響を与える。日本酒は、原材料に占めるコメの割合が7割といわれる。国産ブドウを使った日本ワインも地域活性化の切り札となっており、国内製造のワインの3割は、国産ブドウを原料に使う。これらの酒類の需要がどう推移するかにより、国内の農業の在り方も変わってくる。そうした背景を講義などで学んでいるからか、学生たちは酒離れ現象を漫然と見ているわけではない。卒論でZ世代の酒離れの原因を探りながら、どうすれば若者の需要が伸びるかを考察した学生がいる。女性受けする果実酒の製造・販売に力を入れる酒造会社を研究対象にした学生もいる。魚沼の里を訪れたゼミ生5人のうち、4人はふだん飲酒習慣がないが、地域密着型ビジネスへの関心から視察先として選定した。
大手酒類メーカーはノンアルコール飲料や機能性を強化した酒など商品自体を多様化させることで、業界の生き残りを図っている。一方、地域と密接な蔵元は、さまざまな地域資源を絡めながら、事業領域そのものを広げようとしている点が特徴だ。これらのビジネスが飲酒習慣のない人の心をどこまでつかめるか。蔵元の活動をフォローしていきたい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年2月26日号掲載)
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