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家康に応えハイブリッドに  いろいろ使える江戸みそ  畑中三応子 食文化研究家

2023.02.27

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家康に応えハイブリッドに  いろいろ使える江戸みそ  畑中三応子 食文化研究家の写真

 NHK大河ドラマ「どうする家康」で注目される愛知県岡崎市は、八丁みその発祥地。徳川家康と三河武士団が終生愛した豆みそで、色が濃く、大豆特有の匂いと濃厚なうま味、独特の渋みと少しの酸味がある。岡崎城から8丁(約870㍍)西に位置する八丁村で作られたことが名前の由来とされ、いまも旧東海道を挟んで2軒の老舗が江戸時代と同じように、木桶で天然醸造を続けている。

 八丁みそと白みそ、両方のよさを兼ね備えたみそが作れないかという家康の要望にこたえ、江戸で開発されたと伝えられるみそがある。

 その白みそとは、家康が少年期を過ごした駿河国(現在の静岡県中部)で生まれた相白みそ。今川義元を頼って京都から移住した公家たちが伝えた白みそと、もともと土地にあった田舎みその特徴を合わせ持つことから、こう呼ばれるようになったという。見た目は西京みそにそっくりだが、そこまでは甘くなく、こうじの強い香りと大豆の風味が感じられる。

 すでにハイブリッドの相白みそに、さらに八丁みそをかけ合わせた江戸みそは、色は濃い茶褐色。塩味はおだやかで、ほどよく甘くて大豆の風味はしっかりと、3種のよいとこどりだ。ほぼ同量の大豆と米こうじをたっぷり使い、塩分は少なめで約2週間で熟成させる。非常に贅沢でフレッシュなみそである。

 特別に、米こうじを大豆の2倍量も使う、さらにリッチでもっと甘いみそもあった。歌舞伎の演目にも登場する高級ブランドみそだった。

 米こうじの割合が多いことと短期熟成は西京みそと同じだが、大豆を煮る京都に対し、江戸では蒸すところが違う。大豆成分が煮汁に流出せずに深い味わいが残り、色濃く仕上がる。

 江戸時代、みそは手作りするものだったが、狭い家に住む江戸の庶民には無理だった。そこで小規模なみそ屋がたくさんできた。人口密集地なので木桶で長期熟成させる大きな蔵は建てられない。一気に発酵させ、できたてを販売する江戸みそは、住宅事情にもかなっていた。

 昭和前期まで東京のみそ需要の6割を占めていたが、太平洋戦争中、米を大量に使うため製造禁止になってしまった。昭和30年代、より甘いほうが「江戸甘味噌」として製造再開されたが、ほどよい甘さのみそは完全に忘れ去られた。戦前の文献から製法を見つけ出し、2014年に「江戸味噌」の名で復活させたのが港区の「日出味噌醸造元」。直営の専門店「東京江戸味噌 広尾本店」ではテイスティングができ、100㌘から計り売りしている。(写真:右の江戸甘味噌は塩分5%で応用範囲が広い。左は同9%の江戸味噌)

 店長の河村さんによると、洗練されたすっきりした味で、合わせる材料の持ち味を引き出す力が強い。みそを水と酒で溶き、かつお節を加えてよく煮て漉したものは「煮抜き汁」と呼ばれ、しょうゆが普及するまで調味料として使われた。江戸みその煮抜き汁でねぎま鍋を作ると、最高においしいそうだ。

 洋風の味つけにもマッチする。ホワイトシチューに入れると、みそ味を主張せず全体のコクを上げるなど、長期熟成のみそにはない使い方がいろいろ。オリーブオイルやハーブ類ともよく合う。家康のふところの深さを感じさせるみそである。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年2月13日号掲載)

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