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アフリカ豚熱の警戒強化を  人畜共通感染症への対応必要  アグリラボ所長コラム

2022.10.06

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 ウクライナ戦争の影響などで食料価格が高騰し、食料の安定供給に対する関心が高まっているが、見落としがちなのが動物や植物の感染症だ。岸田文雄政権は入国制限を緩和したが、感染症のリスクを高めるという副作用を伴う。食料の安定的な供給を確保する上で、動植物の検疫の強化が必要だ。

 特に致死率が高く有効なワクチンが開発されていないアフリカ豚熱(ASF)は、中国や韓国でも発生が確認されており、万が一国内の養豚場で発生すれば大量の殺処分に直結する。国内への侵入を食い止めることができても、北米やデンマークなど日本が輸入している国や地域で発生すれば豚肉の輸入が停止する。

 日本の調達先でなくても、中国のような大消費国でASFの被害が拡大すれば、殺処分による供給の減少を補うために養豚の増産が必要になり、飼料価格が高騰する。ASFはさまざまなルートで豚肉の供給を脅かす恐るべき病気であるという認識が必要だ。

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 新型コロナの発生以降、感染予防のため人やモノの動きが抑制されASFに対する警戒が緩んでいるかもしれないが、国連食糧農業機関(FAO)は、ロシアによるウクライナ侵攻が、ASFを含む感染症を拡散し食料安全保障を脅かす恐れがあると警戒している。

 ASFは2007年にアフリカからジョージアに広がり、ウクライナでは12年7月に発生したが、その後は感染拡大を抑制してきた。ハンガリー、ルーマニアなど周辺国で大発生しているのと比べると、衛生管理が徹底していた。

 しかし、ロシアの侵攻により、人手不足で家畜の衛生管理まで手が回らない。家畜のための医薬品は十分に供給できず、大量の家畜の死骸はさまざまな病気の感染源となりうる。周辺国ではイノシシなど野生動物への感染も多発しているが、その防御もおろそかになっている。

 FAOはインフォメーション・ノート(6月改訂版)で、「ASFの封じ込め」を「食料・肥料の貿易の維持」や「食料供給源の多様化」とともに、8つの政策提言の一つに位置付け、監視の強化や早期警報が重要だと指摘した。

 国際的には新型コロナの発生以降、野生動物を起源とする新たな感染症の発生に対する危機感が強まり、家畜だけでなく野生動物も含め、人間と動物の病気の予防や対策を統合する「ワン・ヘルス」という考え方が重視されるようになっている。

 しかし日本では、人の病気は厚生労働省、家畜・植物の病気は農林水産省と縦割りが徹底しており「ワン・ヘルス」という概念そのものが浸透していない。日本政府は、新型コロナの感染予防対策として厳しい入国制限を続けてきたが、今月11日に規制を緩和した。

 人とモノの移動が活発になれば当然、ASFを含む動物や植物の病気が侵入する恐れが高まる。外国人観光客の誘致など観光業の支援も重要だが、食料・農業への影響も十分に考慮し、予防の段階から対策を一元化する「ワン・ヘルス」のアプローチが必要だ。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)

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