飯舘ブランドの再生目指して」 菅沼栄一郎 ジャーナリスト 連載「よんななエコノミー」
2023.10.09

福島県飯舘村の小林美恵子さん(67)にとって、この夏は気候変動以上に暑い夏だった。8月初めに設立した小さな一般社団法人「阿武隈クラブ IITATE」代表を引き受けたのだ。
「村の将来を考えると、不安でいっぱいだった。戻ってきたのは年寄りばかりだし」「でもね、最近移住した若い人たちが、除染したきり放ってあった農地に種をまいて...」
震災から12年。避難指示解除から6年。人口は、震災前の4分の1、約1500人に落ち込んだまま。「元には戻らない」。前村長は3年前、そうつぶやいて役場を去った。
長田卓也さん(39)と仲間3人が、70アールの農地を借り集めて大規模なインゲン作りを始めたのは、この春のこと。隣の宮城県から「何もない村」に移り住んで始めた整骨院へ治療に来たお年寄りに、勧められた。(写真はイメージ)
「イータテブルー」はかつて、全国でも一目置かれる存在だった。福島市から車で1時間だが、標高は500メートルほど。冷涼な気候が特産を生んだ。
4人の移住者とも農業は初めて。なのに、7月末に始まった収穫・出荷では、村で常識だったJA経由をパスして、東京の大田市場に直接売り込んだ。市場の担当者は鮮やかなグリーンに「2キロケース6千円」の値をつけた。県内市場の倍だ。
大田市場は「できるだけ多く送って」。夜昼突貫の作業が続いた。「日が上るとインゲンはうまみと栄養を株に戻す習性がある」。研究熱心な長田さんが調べ、炭鉱夫が坑道で使うようなヘッドライトをつけた。
法人のメンバーは6人。地元生まれの美恵子さんの信用を前面に出し、4年前に東隣りの相馬市から移住した肉牛農家も参加した。70頭の牛を、インゲンで開いた販売ルートに乗せる将来計画を描く。
法人設立などの相談に乗った横山秀人村議(行政書士)は、「まとまった若い人の移住は村の力になる」。9月議会の一般質問で、1億円規模の移住関連予算を、移住者と村民一体となって活用するよう訴えた。
1535人の村内居住者(9月1日現在)のうち帰還者は1222人、移住を含む転入者は254人。転入者がじわりと増えている。
8月の終わりの夜。「阿武隈クラブ IITATE」のメンバーが長田さんの家にやってきた。「子どもの数、多いよね」。妻の早さんが数えると12人。60頭の牛を連れて宮城県蔵王に避難していた美恵子さんの長男家族も戻ってくる。
野菜作りばかりでない。村のお年寄りが定期的に集まる「健康いちばん!の集い」にも、子ども連れで積極参加する。避難指示が解除されて間もない浜通り地域への事業拡大もにらむ。「首都圏などから企業進出が目立つが、足元の農業を見据えたい」。自治体の境界を超えて長田さんの格闘は広がる。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年9月25日号掲載)
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