伝統食品「月餅」に新商品続々 中国、若者を意識 NNA
2023.10.04

中秋節(旧暦8月15日、今年は9月29日)を間近に控え、この日に食べる習慣のある中国伝統食品「月餅」市場が盛り上がりを見せている。小豆やハスの実、黒ゴマ、ナツメなどを使った甘いあん、肉を代表とするしょっぱいあんなど各地ごとにさまざまな月餅があることで知られるが、近年は消費者の目を引こうと、これまでにない月餅商品が多く登場。日本円にして5000億円を超える月餅市場を取り込もうと多くの企業が今も参入する中、若者を意識した商品開発が目立ち、変わり種のあんや見た目の良さを売りにした商品投入が相次ぐ。(写真:中国伝統食品「月餅」市場が盛り上がりを見せている。近年は消費者の目を引こうと、これまでにない月餅商品が多く登場している。写真はカフェチェーンが売り出した「麻婆豆腐」風味の月餅=上海市)
子どものころはアンコや黒ゴマなどを使ったいわゆる伝統的な月餅しか出回っていなかった。目新しい月餅が売りに出されるようになったのは私が大人になってからだ――。上海市に住む浙江省出身の女性(43)はこう振り返る。
女性が言うように、現在は実店舗やネットスーパーで、実に多種多様な月餅商品が市場に投入されていることが見て取れ、伝統的な月餅とともに、これまでになかった新しい商品も多い。伝統的な月餅に対する「味が重過ぎる」「カロリーが高過ぎる」「目新しさがない」といった声を反映した形で、今後の主力消費層の若者を意識した商品が目立つ。
今年はイチゴやブルーベリー、メロンなどこれまであまり使われていなかったフルーツ、芋類、雑穀を取り入れた月餅が登場。アイスクリーム大手のハーゲンダッツはアイスの月餅商品を発売し、乳業大手の光明乳業は白酒(中国の蒸留酒、パイチュウ)を入れたアイス月餅の販売を始めた。飲料大手のコカ・コーラは無糖の「コカ・コーラゼロ」を練り込んだ月餅商品を売り込んだ。
変わり種としてはカフェチェーン「シーソーコーヒー」が投入した「麻婆(マーボー)豆腐」風味の月餅。皮はココア味で、あんには豆干(乾燥した豆腐)やラー油が練り込まれている。皮の甘い香りに交じりはっきりと香辛料のにおいが漂う。ピリッとスパイシーな辛みと甘みの組み合わせで、一部消費者からの評価が高い。今年は月餅のあんに「藤椒牛肉」などといった辛い料理を応用する動きがトレンドのようだ。
高級食材を使った商品の投入も多い。ここ数年はアワビの入った月餅が注目を集めたほか、フカヒレやツバメの巣、高級生薬「冬虫夏草」などをあんに練り込んだ月餅商品も売り出された。
月餅そのものの美しさを競う動きもあり、月餅の表面に精緻な模様を描いたり、フランスの焼き菓子マカロンのようなカラフルで小ぶりなものも市場に投入されている。
紀元前から登場
月餅の起源は実に古い。中国メディアによると、月餅は紀元前1000年以上前の殷・周の時代から現在の江蘇・浙江省の一帯に存在しており、前漢の時代になってゴマやクルミなどが月餅に使われていたとの記録がある。中秋節に月見をしながら月餅を食べることは家族だんらんの象徴として尊ばれ、現在は企業や個人間の贈答品としての存在感を高めている。
月餅は現在、広東省周辺の「広式」や広東省の中でも南東沿海部に位置する潮汕文化圏の「潮式」、山西省の「晋式」、北京市周辺を中心とする「京式」、江蘇省・浙江省・上海市周辺の「蘇式」の5大流派があり、地域の文化に根差した特徴をそれぞれ持つ。全国各地で共通の食品が食されるのは中国でも珍しいとされる。
月餅市場は今も伸びている。シンクタンクの中国データ研究センターによると、今年の中秋節向けの月餅生産量は前年同期比で5%増の約46万トンとなり、市場規模は8%増の263億元(約5350億円)となる見通し。月餅の粗利益率が約60%の高水準といわれることを魅力に、多くの食品関連企業が参入。月餅を生産する企業は現在全国に2万1000社以上で、市場競争が激化している。
月餅は自家消費よりも贈り物としての需要の方が高いようだ。日用品の電子商取引(EC)サイト「京東スーパー」が実施した今年の月餅購入に関する調査では、調査対象の58%が「親族や友人、同僚など向けの贈答品用として月餅を購入する」と答え、中でも86%は「贈答用包装が施されたセット商品を購入する」と回答した。
従来は得意先などに向けた贈り物として、1万元を超えるような高額の月餅商品に人気が集まっていた。ただ近年は政府の「倹約令」や腐敗摘発の強化などを背景に、メーカー側は家庭向けの商品開発に注力。当局指導の下、価格は落ち着きつつあり、スーパーや専門店で売り出される月餅商品は包装をシンプルにした100~300元の価格帯に集中している。(NNA)
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