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集落を体験する  奄美大島の大和村  沼尾波子 東洋大学教授

2022.09.12

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集落を体験する  奄美大島の大和村  沼尾波子 東洋大学教授の写真

 2021年7月、奄美大島、徳之島、沖縄島北部、西表島の4地域は世界自然遺産に認定された。常緑広葉樹多雨林に覆われた亜熱帯性気候を有するこの地域は、世界の生物多様性ホットスポットの一つともいわれ、多くの固有種や絶滅危惧種が生息する。

 先日、その奄美大島にある大和村(やまとそん)を訪問する機会を得た。大和村は1908年の誕生以来114年間、合併することなく今日に至っている。村内には11の集落があり、強い絆で結ばれたコミュニティーが存続する。その一つである国直集落を訪れ、民宿に滞在した。(写真:国直地区にある宮古崎の風景。2018年のNHK大河ドラマ西郷どんのロケ地にもなった=7月、筆者撮影)

 集落は人口111人、世帯数67(2022年7月)で、国直海岸に接する自然豊かな地域である。ここにはフクギ並木や宮古崎などの自然があり、国直沖ではサンゴの産卵もみられる。

 豊かな自然環境を保全しつつも、人々の生活を支える稼得機会をどう確保するか。国直集落では、NPO法人TAMASUとともに、地域資源の保全と、住民主体の体験交流に取り組む。イタリアのアルベルゴ・ディフーゾ(町全体を宿泊施設と捉え宿泊機能を分散する)の発想も取り入れながら、集落まるごと体験交流という、新たな「観光」スタイルを模索している。

 体験交流では「海辺で楽しむ」「里山を楽しむ」「集落を楽しむ」「島料理を楽しむ」という四つのコンセプトを掲げ、51の体験メニューを用意する。体験ツアーの案内人は漁師、農家、主婦、など地元の方々で、地域の風土や文化の営みにかかわる面白い人がいたら、その人を軸にプログラムを構築する。地元の伝統的な漁法によるトビウオ漁体験など、他にはないプログラムが並ぶ。

 観光により地元の暮らしが壊れることのないよう、住民へのアンケートとワークショップを重ね、ローカル・ルールも策定した。ごみの増加、夜間の騒音、治安の悪化などの懸念に対し、集落清掃活動の実施、夜間10時以降は外で騒がないというルールの制定、キャンプ実施の際の区長届け出、集落内の車の走行速度の20㌔制限ルールなど、独自の決まりをつくり、皆でこれを守る。

 集落をサポートするNPOの名称「たます」とは奄美の方言で、大切な地域の宝物を皆で守り、平等に恩恵を分かち合うという意味を持つのだそうだ。

 世界自然遺産認定後、豊かな自然環境保全と観光振興との調和が求められる中で、住民自治を核とした風土と文化の保全・継承とともに、新しい観光・交流の形を模索する取り組みが印象に残った。

 何より、地元の食事はおいしく、そして国直集落の夜は心地良かった。民宿のすぐ外を天然記念物のオカヤドカリがし、ヤモリの鳴き声と波の音が響くゆったりとした時間が流れていた。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年8月29日号掲載)

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