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トイレ問題の先のジェンダーフリー  青山浩子 新潟食料農業大学准教授  連載「グリーン&ブルー」

2023.09.11

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トイレ問題の先のジェンダーフリー  青山浩子 新潟食料農業大学准教授  連載「グリーン&ブルー」の写真

 労働力としてのみならず、マーケットインの発想に立ちやすいという両面から、女性の農業参画への期待が高まっている。男性中心に仕組みが出来上がっているため、女性に不便な部分もある。農業者が集まる会合では「どうすれば、女性が農業界で働きやすくなるか?」という話題が出る。(写真はイメージ)

 よく「女性用トイレを設置する必要」という意見を聞く。屋外にトイレが少ないのは事実。女性従業員を雇う男性経営者も「トイレに関する要望が多い」という。

 しかし、農業界で活躍中の女性たちは、少し異なる角度から見ている。新潟県小千谷市で6次産業化の経験を生かし、農業者を支援する「農プロデュース リッツ」の新谷梨恵子社長は「トイレの問題だけじゃない」と話す。「この時世、快適なトイレを求めるのは女性も男性も同じ」と新谷さん。ジェンダーフリーの視点から、誰もが働きやすい環境を整備するよう業界全体で向きあう必要があるという考えだ。

 個別の事象にとらわれず、農業界はどうあるべきか。まず、女性たちを貴重な人材としてとらえ、将来のキャリアについて、共に考える姿勢が経営者や地域に求められるという声が多い。近年、組織的な運営をする農業法人が増えているが、従業員は数人しかいない法人が大半で、役職数も少ないのは事実だ。とはいえ、長年経験を積んでも同じ仕事、同じ勤務条件が続くと、本人には先が見えず不安になる。

 優秀な女性に活躍してほしいと考える経営者のなかには、本人の意向を聞いた上で農産加工部門を立ち上げ、リーダーに抜擢している。少ない例ではあるが、10年後の自分の姿を描けるよう、日ごろから経営者との意思疎通を通じ、何らかのステップアップを示すことができるかどうか。経営者側の意識にかかっている。だが、考えてみれば、長期的なキャリアデザインは、女性に限らず男性に対しても当てはまる話だ。

 要は、男女を問わず、志を持って入ってきた人を農業界や地域社会が貴重な人材として受け入れ、将来について話し合い、一緒になって道を開いていく覚悟が必要ではないかということだ。こうした視点が欠かせない。

 ただ本質的に、女性がより能力を発揮できる部分もある。6次産業化のみならず、時間管理の意識も高いようだ。新潟市内で野菜と米を生産する「坂井ファームクリエイト」の坂井涼子社長は「女性スタッフは概して決められた時間で終えようと工夫する」という。仕事と家事・育児を両立させてきた経験ゆえか。そうした特性が発揮されれば、農業の生産性向上につながる可能性もある。

 トイレ問題を入り口にして、実際に活躍している女性たちに耳を傾け、長く働きたいと思える産業にしていくために何が必要か、女性を雇うことで農業界にどんなメリットを得ることができるかまで議論が深まればと思う。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年8月28日号掲載)

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