林業のもうけ、森林所有者に恩恵を 赤堀楠雄 林材ライター 連載「グリーン&ブルー」
2023.08.28

「最近は間伐をさせてくれ、作業道を作らせてくれと、いろいろな業者がやって来て、ウチの山ではいつも誰かが作業している。しかし、所有者である自分にはほとんどお金が入ってこない」
九州のある地域でかなりの面積の森林を所有している林家がこのように、ため息交じりに話すのを聞いたのは、もう20年近くも前のことだ。
間伐も道の整備も森林を管理する上で重要な作業だ。もちろん、費用はかかるが、補助金を利用できるし、足りない分は間伐材や作業道開設に伴って伐採される木の売り上げで賄える。(写真上:木材の生産現場)
所有者の負担なしに間伐が進み、道も整備される。作業を担当した業者も仕事が得られる。良いことずくめのようにもみえるが、所有者が浮かない顔をするのは、森林の経営者であるはずの自分の立場が揺らいでいることを実感しているからだろう。
森林所有者が持ち山から利益を得られず、作業をする事業者は仕事になるというのは、森林の経済的な価値を利用して食べているのは事業者だということになる。日本の林業はその構図が定着してしまっていて、所有者の持ち山への関心や意欲は薄れる一方だ。
国や自治体がつくる森林・林業に関する計画も木材の供給量を増やすことばかりが目指されていて、所有者の利益を確保することが軽視されているように思えてならない。供給量が増えれば、生産を担う事業者のビジネス機会は増える。だが、所有者にとってはどうか。
木材の主要な需要先である住宅については、少子化などから今後、新築住宅が激減することが確実視されている。需要が不調の時に供給量が増えれば木材がだぶつき、価格が暴落する恐れがある。価格が下がれば所有者は利益を得ることがいよいよ難しくなる。
国も自治体も供給拡大が一択であるかのようなスタンスは改めるべきだ。収穫時期をずらせない農作物と異なり、木材はマーケットの条件が悪ければ山に立ったままにしておくこともできるのである。
多くが山間地域の住民でもある森林所有者の利益が確保され、持ち山への関心も高まる。もちろん事業者のビジネスも成立する。そんな林業の将来像を描きたい。
(Kyodo Weekly・政経週報 2023年8月14・21日号掲載)
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