日本水産物の加工・販売禁止 中国が連日の措置発令、広がる影響 NNA
2023.09.04

中国国家市場監督管理総局は8月25日、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まったことを受けて、中国国内の食品業界の経営者に対し、日本産水産物の加工や販売を禁じると発表した。24日に日本産水産物の輸入を全面的に停止したことに続く措置で、規制範囲を拡大した。影響は多方面に広がっており、日系を含む飲食店などは対応に追われている。(写真上:中国政府は25日、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出が始まったことを受けて、日本産水産物の加工や販売を禁じると発表した。24日に日本産水産物の輸入を停止したことに続く措置で、規制範囲を拡大した=25日、上海)
日本産水産物の調達、食品への加工、インターネットを含む販売を禁止する。市場で販売される輸入水産物の抜き打ち検査も強化し、違法行為が見つかった場合は「厳しく処分する」と表明した。
中国で既に通関を終えた日本産水産物を飲食店で提供することもできなくなるとみられる。
各地で食塩の買い占めが起きる中、食塩価格の監視も強化する。買い占めや値上げ情報の捏造(ねつぞう)・流布などの価格つり上げ行為を厳しく調査する。
海洋放出の開始を受け、中国は24日から日本産水産物の輸入を全面的に停止した。これまでは福島県や長野県など10都県産の食品と飼料(新潟県産米を除く)の輸入を停止していたが、さらに踏み込んだ措置となった。
中国は日本の水産物で大口の輸出先。日本の農林水産省によると、2022年の水産物輸出額は中国が国・地域別で最多の871億円。ホタテ貝(467億円)やマグロ(40億円)など複数の品目で中国は最大の輸出先となった。
同じく禁輸措置を打ち出した香港を合わせると、22年の水産物輸出額は1626億円で、全体の約42%を占めた。
対応追われる日本企業
中国で飲食店などを展開する日本企業は対応に追われている。
回転すしチェーン「はま寿司」を展開するゼンショーホールディングス(HD)は25日、輸入停止を受けて中国国内の店舗で日本産のホタテやイクラ、ブリなどの販売を中止したと明らかにした。日本産の水産物を安定供給できなくなるためで、一部の魚種は他国産に切り替えて対応している。
同社によると、25日までに一部店舗では現地の衛生当局担当者が訪れたという。
ゼンショーHDの担当者は「中国国内で扱う食材の中で日本産が占める割合はそこまで大きくなく、影響は軽微」と説明。今後は規制の対象が他の食品などに広がる可能性もあるとして、「その都度対応していく」とコメントした。
食品事業のヨシムラ・フード・ホールディングスは25日、子会社が手がける北海道産ホタテの海外販売について「主な販売先は欧米で、中国への販売額は売上高全体の約5%と限定的」と明らかにした。日本産ホタテを中国の加工企業経由で仕入れているシンガポール子会社についても、他国からの調達ルートを確保できていることなどから現時点で業績に与える影響は限定的と説明した。
帝国データバンクが25日発表した調査報告によると、中国向けに輸出を行う食品関連の日本企業は727社で、このうち水産品関連企業は164社。727社のうち、中国向け輸出の割合が5割を上回る企業の比率は55.9%に上った。
帝国データバンクは、「最大の得意先として中国市場の存在感は大きく、2次、3次取引を含めた多くの企業で甚大な影響が及ぶ」とみている。
広告からも消えた鮮魚
中国では日本料理店に対する風当たりが強まっている。
北京の飲食業界関係者によると、中国人の経営者から店舗の広告や口コミサイトに載せていた鮮魚の写真を全て取り下げるように指示された日本料理店もあるという。
中国系の高級すしチェーンは、口コミサイトに「食材の産地調整」と題した声明を掲載し、「市場と顧客の需要に合わせて、世界各地の良質で新鮮な食材を厳格に選択している」と表明した。業界関係者は「こうした動きが今後増えてくると思う」と述べた。
規制前に仕入れていた水産物についても、提供を控える動きがある。四川省成都市と河南省鄭州市の飲食店が加盟する業界2団体は24日夜、会員に対して全ての日本産水産物の使用を停止するよう通達した。
日本の水産物輸入を手がける企業関係者は「今まで日本産といえば安心、安全でおいしいことが売りだったが、イメージががらりと変わってしまった」と嘆いた。
上観新聞によると、中国本土の日本料理店の数は今年6月時点で7万9324店。飲食店の業態別で6位の規模、中国料理関連の業態以外では首位だった。このうち客単価が1000元(約2万円)を超える高級店は北京市と上海市を中心に378店。高級店は日本産を売りにしていた側面があり、今回の措置による影響は大きいとみられている。
「慎重な言動を」、大使館が注意喚起
北京の日本大使館は25日、在留邦人に「外出する際、不必要に日本語を大きな声で話さない」など、慎重な言動を心がけるよう注意喚起した。大使館を訪問する必要がある場合は、大使館周囲の様子に細心の注意を払うことも呼びかけた。
北京の女性駐在員は、生活に変化はないものの「今は日本人同士で外食するのも気が引ける」と不安げに話した。
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