1頭当たりの費用が増加 ペット市場は健康・グルメ志向 徳永優 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員
2022.09.15
ライフスタイルが多様化する中でペットに対する考え方も変化し、ペットの健康を気遣う飼い主が増え、「健康志向」「グルメ」「高齢化」をキーワードとしたペットフードやペット用品、ペット保険への新規加入者が増加している。
ペットの飼育頭数が近年、頭打ち傾向とされる一方、ペットに対する支出は増加傾向をたどっている。家族と同じように位置付ける「コンパニオン・アニマル」としてペットを受け入れる家庭が増加しているほか、従来は飼育に慎重だった単身者や高齢者が、ペットを癒しとして飼育する傾向も見られ、飼育のサポート、またはペットとの生活を楽しむためのサービス関連支出が増加していくと推察している。
犬猫の飼育頭数は減少傾向に転じており、人口減やペットの高齢化もあり、中長期的には犬の飼育頭数が減少、猫の飼育頭数が微増・横ばいで推移しているため、数量ベースでの大幅な拡大の兆しは見られないが、飼い主がペット1頭にかける費用は増加傾向にある。
ペットビジネス関連総市場には、フード市場、用品市場、生体市場、ペット関連サービス市場が含まれている。2021年度のペットビジネス関連総市場規模は、小売金額ベースで前年比1.8%増の1兆7187億円となった。
犬猫の生体価格が高騰しているといわれている中、ペットフードやペット周辺サービス産業を中心に、飼育者によるペットの健康意識の高まりが市場伸長の要因になっている。
プレミアムフードが好調
ドッグフード、キャットフード市場ともに、高品質・高栄養で高価格な「プレミアムフード」の需要拡大や健康志向の高まりにより、年齢別や犬種別、体格別、健康目的・症状ケア別などの商品の細分化・多様化が進んでいる。
ペットフードメーカーにおいて、21年度の売上高は前年より増える企業が多く、内訳を見ると犬猫ともにプレミアムタイプのフードやスナックが好調に推移する企業が多かった。
中でも「健康志向」「グルメ」「高齢化」をキーワードとした付加価値の高い高単価な商品が好調に推移した。特にキャットフード市場は、近年の猫人気や新規飼育者増加によるペットフードメーカーの新商品投入や、小売りによる猫関連売場を拡大させる傾向が追い風となって、拡大基調で推移している。
猫用のスナック類は、いなばペットフード(静岡市)の液状おやつ「CIAO ちゅーる」のヒットにより、他のフードメーカーも手であげられるウェットタイプの商品を投入し、直近5年では前年比2桁台の伸び率で市場が活性化している。
新型コロナウイルス感染症による外出自粛の中、ペットと過ごす時間が増えたことや、ペットにより良いフードを与えたい、コミュニケーションをとりたいという考えから、犬猫問わずスナックの日常使いが増えたことで、犬の飼育頭数が伸び悩む中においても、犬とのコミュニケーションを図れるものとして需要が底堅く、市場は微増で推移している。
伸びるオーラルケア、保険
口臭を気にする飼い主のためにデンタルケアガムやスナック、国産や天然素材にこだわった商品の展開も多くみられる。ペット用品についても、健康管理に関わるデンタル用品は、成長にやや鈍化傾向が見られるものの、ペットのオーラルケア・デンタルケアへの意識が高まりにより、引き続き高い成長率を維持していくものと見られる。
ペット関連サービスでは、ペットホテル共生住宅、ペット同伴可能な宿泊施設、ペット保険等、動物病院以外のペット関連サービスにかける支出の拡大トレンドが続いている。
ペット保険の加入者の多くを犬飼育者が占めているが、犬の飼育頭数の伸び悩みの影響を受けることなく、ペットの健康管理への意識の高い飼育者の需要を獲得し、堅調に成長を続けている。
新型コロナウイルス感染症による外出自粛がコンパニオンアニマル化の追い風となり、いざという時のために医療費が高額にならないように備えておこうと新規加入する飼い主の増加や、一部の企業はシニア期に加入できる商品や、最近増えている保護犬・保護猫向けの保険商品を開発するなど、各社の商品開発・提案が活発になっている。
今後もペットを家族の一員として受け入れる家庭が増加し、フード市場、用品市場、生体市場では、よりプレミアム(高付加価値商品)志向が強まるとみている。
ペット保険を含むペット関連サービス市場では、今後もペットの健康を気遣い、ペット保険加入件数は増加していくとみられる。こうしたことから、ペットビジネス関連総市場規模は、24年度には1兆8370億円にまで拡大すると予測する。
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