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ピンチ迎えた漬物製造  守りたい地域の伝統の味  前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタント

2022.08.29

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ピンチ迎えた漬物製造  守りたい地域の伝統の味  前田佳栄 日本総合研究所創発戦略センターコンサルタントの写真

 地域に根付いた伝統の味である漬物がピンチを迎えている。2021年6月の食品衛生法改正により、漬物を製造販売する施設では、「漬物製造業」の許可が必要になった。(写真はイメージ)

 改正後の基準では、手指で触れることなく開閉できる自動やレバー式の蛇口を備えた流水式手洗い設備を設置することなどが求められることになり、家庭の台所や屋外の壁のない車庫などでは許可の取得が難しくなった。

 営業許可の取得には3年の猶予期間が設けられているものの、基準を満たすように設備を改装するには多額の費用が必要となる。そのため、秋田の代表的な郷土食品である「いぶりがっこ」などでは、小規模・高齢の農業者を中心に製造販売をとめてしまう人が相次いでいる。

求められる衛生管理


 法改正の背景には全国で浅漬による食中毒が多発したことが挙げられる。2012(平成24)年には北海道で浅漬を原因食品とする腸管出血性大腸菌O157の食中毒が発生し、8人の死者が出ている。浅漬は長期間発酵させた漬物と比較すると酸性が弱い、食塩濃度が低いなどの傾向があり雑菌が繁殖しやすいため、徹底した衛生管理が求められる。

 保存食として長い間親しまれてきた「安全な」通常の漬物に関しても、浅漬と同等の衛生管理を求めるのは厳しすぎるという声はあるものの、今後は、通常の漬物であっても、温暖化による保存環境の変化などの影響を考慮する必要があり、従来の衛生管理の基準からレベルを引き上げることは必要だろう。

 法改正への対応として、県の助成やクラウドファンディングなどを利用して、共同の加工場を整備することで、投資の負担を軽減する取り組みがある。

共働で技の伝承を


 投資負担の軽減だけでなく、収穫した農産物や漬物が入ったたるなどの重いものの運搬作業や、インターネットでの販売などのノウハウの必要な作業は若者が担当するなど、作業を分担することで高齢の方でも長く漬物の製造に携わることができる。ベテランと若者の協働を通して、漬物の製造に必要な熟練の技を地域で継承できるというメリットもある。

 ただ、漬物の製造販売では、仕込み段階での作業や、発酵中の様子の確認、出荷作業などで何度も加工場に足を運ぶ必要がある点に注意が必要である。自宅の車庫であればすぐに様子を見に行くことができたが、共同の加工場では、雨や雪の日であっても高齢の方が通えるような交通手段の確保が必要となる。農場から加工場までの農産物の運搬方法も検討しなければならない。

 地域の伝統の味を守るため、食品の安全性に関する対策だけではなく、漬物の製造販売自体を継続できるような対策をセットで講ずることが不可欠だ。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年8月15日号掲載)

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