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「紛争木材」の国際取引続くミャンマー  制裁の包囲網、抜け穴ふさげず  NNA

2023.08.23

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 ミャンマーで、軍事政権に対する米欧の標的制裁が強まる一方、国際的な足並みがそろわずに抜け穴をふさげない状況が続いている。代表例がチークをはじめとするミャンマー産木材だ。同国で武力衝突が激化する中で「紛争木材」に該当するとの指摘が出ているが、中国やインドなど周辺国向けを中心に輸出が継続。政変後の混乱で法の支配が弱まり、長年の課題である違法伐採や密輸が増えて森林破壊が進むと危惧する声もある。(写真はイメージ)

 米国や欧州連合(EU)などは、ミャンマーの木材取引を独占的に手がける国営木材会社ミャンマー・ティンバー・エンタープライズ(MTE)を経済制裁の対象に指定している。制裁を通じて海外への木材販売を抑制することで、国軍の資金源を減らそうというのが狙いだ。

 米国の非営利組織(NPO)フォレスト・トレンズによると、ミャンマー産木材の輸出額は軍事クーデター発生後から2023年1月までで少なくとも5億米ドル(約711億円)超だった。主な仕向け地は、ミャンマー・ティンバー・エンタープライズに制裁を科していない国・地域だ。最大の輸出先は中国で2億7870万米ドル。これにインドの9560万米ドルが続いた。タイやシンガポール、日本も名を連ねている。

 一方、同NPOはミャンマー・ティンバー・エンタープライズに制裁を科している国・地域への輸出額が9050万米ドルに上り、全体の2割近くを占めるとも報告した。国・地域別に見ると、EUの5790万米ドルが最多となっている。うちイタリアが約3710万米ドルで6割を占めた。EUに次いで多かったのは米国の3180万米ドルだった。

不正取引を示唆


 フォレスト・トレンズは、各国・地域の輸入データとミャンマーの公式輸出統計に大きな開きがあることに言及し、「密輸や脱税などの不正取引が横行していることを示唆している」と指摘する。

 公表されているミャンマー側の統計では、22年7月まで1年半の木材(チークと広葉樹の製材)輸出額が1億米ドルを下回った。政変後に各地で武力衝突が増え、特に政変前までミャンマー・ティンバー・エンタープライズの原木搬出量の約6割を占めていた北西部ザガイン地域は激しい戦闘が続く。軍政は同地域の支配に苦戦しており、ただでさえ少ない違法伐採の木材摘発もザガインではほとんどない状況だ。

 88日付国営紙グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマーによると、23年47月のチーク材輸出量が約2611トン、輸出額が814万米ドルだった。主な輸出先は、インド、シンガポール、マレーシア、タイ、中国という。

 ミャンマーでは民主化が進展した10年代に、14年から原木の輸出が禁止されるなど森林資源の保護に向けた法整備が進んだ。軍政下では違法伐採の抑止力が低下しており、軍政の都合に合わせて制度が改変される恐れもある。

 クーデター後は、国際的な森林認証「PEFC認証」「FSC認証」をそれぞれ認定する機関が、ミャンマーの認証システムを停止した。両機関は、ロシアとベラルーシ両国産とは異なり、直接的にミャンマー産木材が「紛争木材」だとは言及していないが、業界関係者はミャンマー産木材の取引に警鐘を鳴らしている。

米の国営銀制裁が影響か


 米財務省は6月21日、ミャンマー外国貿易銀行(MFTB)とミャンマー投資商業銀行(MICB)の国営2行を制裁対象に追加した。外貨取引が滞れば各産業の国営企業の打撃になるとされ、フォレスト・トレンズは、木材では特にMFTBへの制裁が最も影響を与えると訴えていた。

 ただ、追加制裁の直接的な効果はまだ見えてこない。ミャンマー・ティンバー・エンタープライズには製材所や関連産業の民間企業など取引先が多く、包括的な制裁でなければ効力を発揮しないとの指摘もある。

 22年版のミャンマー統計年鑑によると、同社はチークの原木だけでも毎年数万トンを米ドル建てで国内に販売。軍政は近隣国などとの貿易でも決済通貨の「米ドル離れ」を推進しようとしており、これは木材輸出でも制裁を逃れる抜け穴となり得る。

 ミャンマー・ティンバー・エンタープライズの関係者が電子メディアのイラワジにリークした情報によると、米国の制裁対象になっていない国営ミャンマー経済銀行(MEB)の秘密口座を利用して取引を続ける算段もある。国際取引では近隣国の銀行を通じた資金移動もできるという。(NNA

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