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処理水放出、影響は未知数 香港の食品見本市、反応分かれる  NNA

2023.08.28

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処理水放出、影響は未知数 香港の食品見本市、反応分かれる  NNAの写真

 東京電力福島第1原発の処理水が海洋放出された場合に10都県産の水産物を禁輸する計画を香港政府が発表していることに対し、香港で開催された食品見本市に出展した日本や香港の食品関連企業や来場者の間ではさまざまな反応が見られた。日本の出展者は会場に専門家を配置するなど安全性の説明を強化。対象外の地域や食品に風評被害が出ることを懸念する声も聞かれた。(写真上:香港の街の鮮魚店。日本産の水産物も売られている=20日、天后、NNA撮影)

 香港政府は日本が処理水を海洋放出した場合、東京、福島、千葉、栃木、茨城、群馬、宮城、新潟、長野、埼玉の10都県を産地とする水産物の輸入を禁止する計画を発表している。対象は生鮮、冷凍、冷蔵、乾燥またはその他の方法で保存された全ての水産物と海水由来の塩、海藻となっている。

 香港では8月17~19日にBtoB(企業間取引)向け大規模食品見本市「美食商貿博覧(フードエキスポ・プロ)」が開かれ、日本からも約180社・団体が参加した。隣接する会場では一般市民向けの「美食博覧(フードエキスポ)」が21日まで開催された。

 フードエキスポ・プロで日本企業38社が出展したジャパンパビリオンを率いる日本貿易振興機構(ジェトロ)は、各ブースで処理水に関する問い合わせがあった場合、ジェトロのレセプションで一括対応する体制を取った。日本の経済産業省の専門家が待機し、来場者から質問があった際に詳しい説明ができるように準備したという。

 また各ブースには在香港日本国総領事館が作成した「日本政府信頼認証」と題するリーフレットを用意した。(1)多核種除去設備(ALPS)による処理水は汚染水ではない(2)検査を通過し、安全基準を満たした水のみが放出される(3)海洋放出の食品への影響は事前評価で全く問題がないことが確認されており、今後もモニタリングを継続する―といった内容で、イラストとともに「福島県産の魚の刺し身を30年間毎日10枚食べたとしても、歯科でのエックス線検査1回分の被ばく線量の10分に1にも及ばない」と説明した。

業者「風評被害が心配」


 ジャパンパビリオンに出展した山松水産(静岡県焼津市)は冷凍マグロの卸売りを手がける。松永大地・専務取締役は「静岡は措置の対象外で、さらに当社が扱うマグロをとっているのは太平洋のど真ん中。中国や韓国も同じ場所でとっており、実際に影響があるかどうかは分からない」としながらも、「バイヤーや現地の人から、日本からの輸入にネガティブになっているという話や、シビアなところは既に日本産から海外産のものに切り替えているという話を聞いたことはある」と語った。

 水産業者以外でも、風評被害を心配する声はある。日本畜産物輸出促進協議会の食肉加工品輸出部会ブースを取りまとめた日本ハム・ソーセージ工業協同組合の角一健二郎理事は「今のところ影響を感じたことはないが、風評被害は怖い」と話した。

市民「今後も食べる」「怖い」


 見本市に出展した香港の食品業者や来場したバイヤー、市民の間では見方が分かれた。

 「影響はもちろん大きい」と嘆くのは、日本産の水産物を販売する共洋海鮮で代表を務める何さん(女性)。同社はカニやイクラ、ホタテなどを全て日本から輸入しているといい、「今日も顧客から『処理水の問題があるが、この商品は大丈夫か』と聞かれた」と頭を抱える。

 一方、乾物の卸売り・小売りを手がける合泰海産貿易の雷丹霞ディレクターは「影響はあまりないと思う」と楽観的な見方を示す。日本からはサクラエビや干し貝柱、ホタテ、ナマコ、アワビなど輸入しているが、「うちは香港政府から認可されたものしか輸入しないし、常連客は店を信用しているので、客を失うとは考えていない」と胸を張る。

 香港でマレーシア料理レストランを経営する梁さん(男性)は、食品や酒の仕入れを検討するため来場。「普段日本の輸入品を使用しているので、もちろん商売に影響は出る。ただ、仕方ないと思うので、使えるものだけ使うしかない」と述べた。

 消費者の意見もまちまちだ。水産物店のブースを訪れた劉さん(30代女性)は北海道産のカニを購入。「日本の水産物は世界中の人が食べているから心配はしていない。これからも食べるつもりだ」と答えた。一方、陳さん(60代男性)は「処理水は既に放出されていると思っていて、今日は日本の水産物を買っていない」とコメント。「日本産食品は怖い。警戒してしまう」と不安を吐露した。

 香港政府は4月中旬から日本産食品への放射線検査を段階的に強化し、特に水産物に対する検査と特定の放射性元素に関する検査量を増やしている。政府食品環境衛生署食品安全センターが公表している輸入日本食品に対して実施した放射線検査のサンプル数のうち、水産物への検査件数は昨年12月の1カ月間で74件だったが、7月には1945件まで急増。食品全体でも365件から5098件に増えた。結果はいずれも問題なしとなっている。(NNA菅原真央、蘇子善)

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