SDGsで普及が期待される陸上養殖 閉鎖循環式の技術が確立 下出敬士 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員
2023.08.22

現在世界全体では、人口増加と共に1人当たりの魚介類の年間消費量も増加していることから、魚介類の消費量は増加している。1990年より現在に至るまで漁獲量はほぼ横ばいだが、養殖生産量が劇的に増加しており、2020年には世界の漁獲量の49.2%が養殖による生産となるなど、養殖業が果たす役割は大きい。(写真はイメージ)
一方、日本国内では漁業生産者の高齢化や不漁により、漁獲量が減少する傾向にある。農林水産省の漁業・養殖業生産統計によると、海面・内水面を含めた2022年の漁獲量(速報値)は292万5000㌧、養殖生産量は93万4000㌧と、漁獲量が養殖生産量の3倍以上となっている。
その中で、現在陸上に設置した水槽内で養殖を行う「陸上養殖」に注目が集まりつつある。陸上養殖は海面養殖と比較し、管理された状況下で養殖されることから環境負荷が低い養殖方法である。これまで国内では主に小規模の陸上養殖が実施されていたが、一般的には養殖で使用した水をそのまま排水として流す「かけ流し方式」だった。この方法は、設備が簡易なため、低コストで生産が可能であるものの、排水時に浄化処理しないため、水質汚染につながることや、海水を使う場合は海の近くに立地する必要があることが課題だった。
2020年前後から、国内で1000㌧を超す大規模陸上養殖計画が発表され、現在建設が進んでいる。その背景として、「閉鎖循環方式」の陸上養殖システムの技術の確立が進んだことが挙げられる。閉鎖循環式の場合、魚の排泄物等を含んだ水を施設内で浄化し、再度陸上養殖施設へ戻し水を循環させるため排水が発生せず、海水を使う場合でも養殖の実施場所を選ばないことが最大の利点である。
しかし、設備費や光熱費が大幅に掛かることや、養殖に使用した水を浄化して再利用するための硝化、脱窒の技術が課題になっていた。近年はこれらの課題が解消されたことで普及が進み始めている。また環境面でも、閉鎖循環式の場合、魚からの排泄物をそのまま環境中に排出しないため、より環境負荷が軽減される。
主な閉鎖循環式の実施企業としては、ソウルオブジャパン(東京)が三重県津市で年間生産量1万㌧(ラウンドベース)、Proximar(横浜市)は静岡県小山町で同5300㌧(内臓とエラを抜いたセミドレス換算)、いずれもアトランティックサーモンの養殖を予定している。両社はノルウェーなど外資系企業が母体で、いずれも海外で実績がある養殖システムを用いて日本市場に本格参入する。
また、日本で設立されたFRDジャパン(さいたま市)は、独自技術を用いた養殖施設で、千葉県富津市に3500㌧のトラウトサーモンの養殖施設を建設する。日本国内で開発された技術を使用するため、国内の他の養殖事業各社も注目している。陸上養殖での国内でのサケ・マス類の生産量が大幅に増加すれば、国内の生産量の2倍弱となっている海外からの輸入量が減少するため、輸送コストの大幅削減に繋がる。
販売側からも、陸上養殖で生産されたサーモンは、持続可能な環境下で生育したサーモンとして注目を集めている。大手量販店(イオングループやセブンイレブン)でも陸上養殖をアピールして販売された例や、持続可能な食材を使用した商品に採用された例もある。今後は環境に優しい魚として、陸上養殖で生産された魚を目にする機会が、ますます拡大していくこと見込まれる。
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