浮かび上がる協力隊員の顔 「地域おこし協力隊の強化書」発刊 畠田千鶴 地域活性化センター
2022.08.15
満員電車に揺られながら、都心のオフィスに通勤し、従業員が集まって働くことが「当たり前」であったことが、新型コロナウイルスの発生で一変した。テレワークは定着し、二地域居住やワーケーションという言葉も一般的になりつつある。
30年以上、地域活性化の仕事に携わっている筆者にとって、「地方の過疎化と高齢化」は永遠のテーマだと思っていたが、皮肉なことに、新型コロナで都会に住む人の中に、地方を志向する人が一定数いることが見えてきた。
国や自治体は、さまざまな地方移住の取り組みを進めているが、私が注目したのは、「地域おこし協力隊」という国の制度だ。都市から地方に移住して、1年~3年の間、給与をもらいながら、特産品の開発・PR、イベントの企画、地域コミュニティー活動などの協力をする。
総務省の報告によると、2009年度に隊員数89人でスタートしたこの制度、21年度には6000人を超え、年齢構成は、20代が33.6%、30代が35.0%と若い世代が約7割を占めた。
地域への協力は十人十色
このほど発刊した「地域おこし協力隊の強化書」(畠田千鶴監修、287㌻、ビジネス社、2090円)の魅力は、全国10カ所で活動する12人の地域おこし協力隊員・元隊員のルポである。ベテランのライターの2人が、隊員になった経緯から現在の生活について、時には寄り添いながら取材し、一人一人の「顔」を浮かび上がらせた。表紙の装丁は、日本の"顔芸術"の第一人者であるイラストレーターの南伸坊氏だ。
北海道東川町で町と連携してプロジェクトに挑戦する若い女性2人、東日本大震災の復興に尽力し、福島県に定住して地域振興に活躍する中国出身の男性、大手外資系IT企業から転身して熊本県荒尾市で伝統的なみそづくりを承継し、会社を立ち上げた夫婦など、隊員のバックグラウンドも地域への協力のあり方も多様だ。
繊維と織物で有名な山梨県富士吉田市の元隊員・原田陽子さんは、着任前から「流しの洋裁人」と名乗り、"全国各地にミシンや裁縫箱、生地を持参し、洋裁の光景を生み出す"をテーマに、イベント会場でセミオーダーの服作りをしていた。
協力隊着任後は、富士吉田の生地を広くアピールするタスクも加わり、現在も、拠点を富士吉田市に置き、市内の協力者とともにビジネスと町おこしを継続中だ。原田さんは、「親類縁者のいない地方の町でゼロから暮らし始めるのは本当に大変です。その意味でも協力隊になって良かったです」と語る。
本書は、地方移住を希望する人や、受け入れる地域の皆さんに参考にしてほしいためだけではなく、12人の勇気や感動、奮闘ぶりを伝える本づくりを目指した。ぜひ、多くの読者に手にとってもらい、地方にエールを送ってほしいと願っている。
(Kyodo Weekly・政経週報 2022年8月1日号掲載)
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