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農家追い詰める資材価格高  リタイア止める政策を  小視曽四郎 農政ジャーナリスト

2022.08.01

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農家追い詰める資材価格高  リタイア止める政策を  小視曽四郎 農政ジャーナリストの写真

 参院選で与野党が取り上げた食料安保論議を尻目に、農業現場では「異次元」の資材価格高騰が農家を追い詰めている。

 農林水産省が6月末に公表した5月農業物価指数のうち生産資材は前年同月を16カ月連続で上回り、特に飼料のトウモロコシは前年同月で35%上がり、2015年を100とした指数は163.5。全農配合飼料価格は7月からも1万1400円の過去最大の上げ幅で3期連続の過去最高を記録した。肥料も使用量が多い高度化成は1年前より16%増。尿素も同29.3%も上昇。

 一方、農産物価格指数は前年同月より3%上がっただけ。コメは逆に15.8%も下がり、厳しい経営の実態を浮き彫りにした。農家からは「1日たつごとに赤字」(大型酪農法人)「この間までの肥料価格が倍になった」(東北のコメ農家)などあらゆる作物の農家が、異常な値上がりに苦しむ。

 物価高騰では政府も5月に緊急対策で肥料の調達国の多角化や配合飼料価格安定制度の基金積み増しなどを決定。

 しかし、農家への十分な説明や親身さがなく、いろいろな支援策があっても面倒な手続きで無駄になることも多い。業を煮やした45の県が独自に肥飼料、燃料の支援に乗り出さざるを得なくなっている。

 配合飼料には価格安定制度があるが、今年は値上がりした前年の平均価格が基準価格となり、十分な補塡が受けられない。肥料は岸田文雄首相が「コスト増の7割を補塡する」としたが、さまざまな条件や煩雑な事務手続きで悪評もたった08年の対策を念頭にしており、即効性で疑問が上がっている。

 酪農団体が資材価格上昇を受けて、6月に約200戸の酪農家に実施した実態調査で56%が現在の経営環境では、経営継続の危機を訴えた。経営継続は多くの農家が直面する課題になりつつある。 

 そんな中、農水省が6月末、発表した農業構造動態調査結果(21日現在)。食料安保の主体となる全国の農業経営体(耕作面積30㌃以上など)は05年の200万9380から17年で100万の大台割れとなる97万5100まで激減。うち全体の9割以上を占める個人農家も93.5万人と前年より5.7%の高い減少率となった。

 基幹的農業従事者数も122万人強と同5.9%減。気になるのは温暖化やコロナで収入が思うようにいかず、離農が増えているのではという心配だ。ただでさえ高齢化し、夏には猛暑の中、命懸けの厳しい作業。収入が良ければ励みにもなるが、そんな矢先の資材高騰で今年はこのままではリタイアが一層出かねない。本気で食料と農業を守る気なら従来政策を転換し、農業現場をしっかり勇気づけてほしい。

(Kyodo Weekly・政経週報 2022年7月18日号掲載)

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