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重油価格上昇でさらに普及へ  農業用ヒートポンプ、みどり戦略も後押し  下出敬士 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員

2022.07.15

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重油価格上昇でさらに普及へ  農業用ヒートポンプ、みどり戦略も後押し  下出敬士 矢野経済研究所フードサイエンスユニット研究員の写真

 ビニールハウスなどを使用した施設園芸は、内部の温度調節が可能なことから、露地では栽培が不可能な時期に栽培が可能という特徴がある。特に冬季はビニールハウス内を加温することで、暖かい時期に栽培・収穫される作物を栽培できることが大きな強みで、この際は重油を使用した暖房機を用いる例が一般的である。

 農業現場では暖房機以外にも、電気を使用して加温をするヒートポンプが使用されてきた。ヒートポンプは電気と室外の空気を使用して冷媒を膨張や圧縮することで、室内の暖房・冷房・除湿を行うことが可能で、使用電力以上のエネルギーを使用できることから、省エネルギーな機械となっている。

 一方で石油暖房機と比較して価格が高いこと、また気温が低下した場合は加温不足が生じるため、ヒートポンプの単独での使用は一般的でない。そのため低温時は、農業用ヒートポンプと暖房機を併用するハイブリッド運転が一般的になっている。

手厚い補助金で普及


 農業用ヒートポンプは1970年代から一部の生産者が導入していたものの、機器が高価なことなどから普及はあまり進まなかった。その後、2000年代後半に起きた原油価格の高騰により、農業用ヒートポンプは重油に依存しない省エネルギー暖房機器として着目され、2015年にかけて農林水産省の手厚い補助金もあり、急速に導入が進んだ。しかし16年以降は原油価格が安定したため勢いはなくなり、導入数量が横ばいの時期が続いた。

 ところが21年に入ると、状況が一変する。農水省が「みどりの食料システム戦略」を発表し、温室効果ガス削減に向けて機械の電化・水素化など、資材のグリーン化を行うために、ヒートポンプの導入促進が示された。

 みどりの食料システム戦略はヒートポンプ等の導入で、2030年までに暖房機とヒートポンプによるハイブリッド型園芸施設を50%まで上昇させることを中間目標とし、50年までに施設園芸での化石燃料の不使用を目指している。

重油価格高騰に対応


 さらに新型コロナウイルス感染症が一段落したことによる経済活動再開に伴い、国際的に原油価格が高騰した。農業用の燃料であるA重油の1リットル当たりの平均価格は、2015年11月~16年4月の66.5円から、21年11月~22年4月は107.4円へと、1.6倍以上に上昇した。この額はここ10年で最も高かった13年11月~14年4月の102.5円を上回っている。

 これらに対応するため農水省は21年度補正予算で、産地生産基盤パワーアップ事業の中に施設園芸エネルギー転換枠を設定した。これは一定の条件をクリアした生産者に、施設園芸で使用する農業用ヒートポンプなどの導入を支援するもので、当初は10億円の予算であった。

 しかしロシアによるウクライナ侵攻により原油価格がさらに高騰したことから、緊急措置として補助金を10億円から20億円まで拡充したほか、対象外だった機器設置費が対象に変更された。

従来政策も強化


 農水省は以前から、原油価格高騰への支援事業である「施設園芸セーフティネット構築事業」を実施している。

 一定の条件をクリアした生産者が対象で、生産者と国が燃料費の上昇に備えて費用を積み立て、燃料費が一定の基準額を上回った場合は積立金から給付が行われるものである。この事業も22年度から、より一層の原油価格の高騰に備えたコースが新設され、生産者への支援が強化された。

 今後は施設栽培での脱炭素化や、不透明な重油価格の推移を考慮すると、重油に依存しない暖房方法の推進が求められる。そのため農業用ヒートポンプは、さらに脚光を浴びると予想される。

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