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農業の高度化へ日タイが協力  高精度の位置情報、広がる可能性  NNA

2023.07.12

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農業の高度化へ日タイが協力  高精度の位置情報、広がる可能性  NNAの写真

 タイの主要産業の一つである農業の高度化に向けて、日本とタイの協力が進められている。日本で全地球航法衛星システム(GNSS)を活用した農機が普及しつつあることからタイでも商機があるとみて、企業が活用事例を訴求する。6月に首都バンコク近郊で開催されたイベントでは、日タイ5社がそれぞれの技術を披露した。

 北海道庁の統計によると、日本ではGNSSを活用した農業用ガイダンスシステム(経路誘導装置)の出荷台数は、2020年に6070台と、10年で10倍近くに増えている。自動操舵システムは20年に5250台と、10年で50倍以上に拡大した。これらのシステムは、日本では農業の省力化や高精度化に向けて不可欠と見られており、「タイで進行する高齢化や農業の人手不足の現状を考えると、将来的な需要が見込める」(国際協力機構=JICAの関係者)技術だ。

 JICAは空間情報の取得・処理技術を保有するパスコ(東京都目黒区)などと協力し、GNSSの各分野での活用に向けて国際協力の一環として技術支援のプロジェクトを展開してきた。来年2月までのプロジェクトとなり、タイからは、王立測量局(RTSD)や地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)を中心とした複数の政府機関が参画している。JICAが設立支援したタイ国家データセンター(NCDC)は、1年ほど前から高精度測位データを配信。同センターのウェブサイトに登録し、GNSSの受信機があれば、だれでも無料でデータを利用することができる。今年6月時点では、約1700者が登録済みだ。

 6月22日にバンコク東郊サムットプラカン県で開催された「アグリ・デモ・デー」では、農業関連の日タイ企業5社がブースを構え、データの活用例を披露した。ヤンマーアグリ(岡山市)は22年11月に続いて、直進アシストシステムを搭載したトラクターとコンバインの自動直進走行を実演。作成した経路に沿って自動で直進するため、農地を効率的に利用できるほか、作業に集中できる利点があると説明。トウモロコシの播種作業では、直進アシスト機能のない農機と比べて約1.4倍の速さで、ベテラン作業者と同程度の精度の作業ができたとしている。

 DX(デジタル・トランスフォーメーション)による社会課題への取り組みを支援するトプコン(東京都板橋区)は、既存のトラクターや田植え機にGNSS受信機・操作画面・電動ハンドルと角度センサーを取り付け、自動旋回走行を可能にする技術を披露した(写真上:6月、タイ・サムットプラカン県 NNA撮影)。ルートの設定はコンソールで入力し、1時間あれば入力は完了する。当日は屋根にGNSS受信機を取り付けたトラクターが、S字のルートを時速2キロメートルで走行した。機器はどんなに古い型の農機でも取り付けることができ、速度は時速0.1~29キロの範囲で設定可能。価格は非公開だが、新たにトラクターを購入するよりも安価になる利点がある。同社はタイでは、トプコン・ポジショニング・アジア(タイランド)の販売子会社を通じ事業を展開中だ。

 このほか、日系企業ではヤマハ発動機が三井物産、サイアム・モーターズ・グループなどと設立した合弁会社「サイアム・ヤマハ・モーター・ロボティクス」(SYMR)が農業用無人ヘリコプターによる農薬散布のデモンストレーションを実施。無人ヘリコプターの運用には航空局の認可が必要だが、SYMRはタイ国内で唯一取得しているという。

20230705thb002B002.jpg(サイアム・ヤマハ・モーター・ロボティクスは、農業用無人ヘリコプターによる農薬散布のデモンストレーションを実演した=6月、タイ・サムットプラカン県 NNA撮影)

キャッサバ農家を総合的に支援

 「アグリ・デモ・デー」では、タイ企業2社が実演した。クアンタム・モータス(Quantum Motus)はIoT(モノのインターネット)やドローン(小型無人機)を組み合わせて栽培から収穫までの管理を高度化する技術を紹介した。GNSS受信機を搭載したドローンを活用して作物の育成状況を遠隔監視し、伝染病の感染や害虫の状況などを検知する。面積あたりの収穫量を予測し、状況に合わせて農薬や肥料を散布することも可能となる。

 バイオ・マットリンク(Bio MatLink)はキャッサバ農家の栽培から収穫、販売までのプロセスを支援するサービスを提供している。タイはキャッサバの生産量が年間3000万トン以上で、世界有数の生産国。サトウキビなどと並び、タイの主要な農産物だ。バイオ・マットリンクは、まずドローンを使って土地の状況を確認。農地の攪拌(かくはん)や植え付け、施肥などの作業もサポートする。その後、再びドローンを使って農薬を正確に散布しながら、収穫量を算出していく。同社が生産量と供給量を把握することで、キャッサバを買い取る側にとっては、購入量の予測が容易になり、変動を抑えることができる仕組みとなる。バイオ・マットリンクの支援サービスのトータル価格は、1ライ(1600平方メートル)あたり約5000バーツ(約2万600円)で、現在4000世帯が利用登録をしている。タイでキャッサバの耕作面積は900万~1000万ライほどとされるが、2024年にはこのうち100万~200万ライが同社のサービスの対象になる見通し。また、同社が農家向けに無料で提供しているスマートフォンアプリのサービスは、約6万世帯がユーザーになっている。

 JICA事業では今後に向け、データ配信サービスの安定性向上や、NCDCの運営や維持管理にかかる業務マニュアルの作成などを支援していく方針。NCDCの高精度測位データは農業以外にも活用が可能で、JICA事業で進めている測量や建設、自動運転のプロジェクトについても、それぞれの方面に訴求していく考えだ。(NNA

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