存在感増す鹿児島県 JA全中会長に山野氏内定 アグリラボ所長コラム
2023.07.09

(写真はイメージ)
安倍晋三元首相が街頭演説中に銃撃され死去して1年。7月8日に東京・芝公園の増上寺で営まれた一周忌法要後の食事会で、岸田文雄首相は「安倍氏から受け継いだバトンをしっかりと次の世代に引き継ぐ」と述べ、決意を新たにした。しかし、少なくとも農業政策に関しては、規制緩和を柱とする安倍政権の改革は減速しそうだ。
全国農業協同組合中央会(JA全中)は7月4日、次期会長にJA鹿児島県中央会の山野徹会長を内定した。彼の出身母体は野村哲郎農相の古巣でもある。農相は1969年から2004年に退職するまで同県中央会で参事や常務を歴任し、その後に参議院鹿児島選挙区から国政に転じた。
山野次期会長は中央では別の顔を持っている。JAグループの政治組織である全国農業者農政運動組織連盟(農政連)会長だ。彼の最も重要な利害関係者は自民党の農林議員たちであり、そのトップは森山裕元農相だ。
森山元農相は「自民党4役」の一角である選挙対策委員長であると同時に、総合農林政策調査会最高顧問として農業政策に強い影響力を持っている。元農相を選出する衆議院鹿児島4区には、野村農相の出身地である霧島市や、山野次期会長が組合長を務めていたJAそお鹿児島の管内が含まれる。
3人の出身県が同じなのは偶然かもしれないし、JA全中会長が有力政治家の地盤から選ばれた前例もある。しかし、地縁で裏打ちされた濃密な利害関係者が農業政策の重要な地位に揃うのは極めて異例だ。
3人には出身地の他に、もう一つ共通項がある。「新自由主義からの脱却」を掲げていることだ。「新自由主義」の定義は不明確だが、彼らは企業による農地取得などの規制緩和に慎重だ。
鹿児島県は畜産と畑作を主力とする地域で、水田を主力とする全国各地の農村とは構造が異なる。日本の農業は多様性に富み、コメ、畜産、施設園芸、果樹などでは経営課題がまったく異なり、平場と中山間など立地上の差も大きい。
こうした多様で複雑な利害関係を調整するため、自民党は複数の有力農林議員で構成する「インナー」と呼ばれる非公式会合で合意を形成してきた。もちろん、不透明で無責任という負の側面もあるが、権力の集中とトップダウンを回避する知恵でもあった。
利害関係が重なる3人が主導することで、農政の決定プロセスのバランスが損なわれることを懸念する。「鹿児島トリオ」には、コメや果樹など畜産以外の分野の農家や、農業分野に新たに参入しようとする起業家、中山間の小規模農家らの声にも耳を傾け、消費者や流通加工業も含め、多様で幅広い意見を吸い上げる姿勢を期待したい。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)
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