コメを食べてもっと歩く ウクライナ危機で食料・燃料高騰 アグリラボ所長コラム
2022.03.13
ロシアによるウクライナ侵攻は、日本の敗戦間際の絶望的な状況を連想させ胸が潰れる思いだ。追い詰められているゼレンスキー政権に同情するが、「戦争の放棄」という敗戦で得た教訓を踏まえれば、武器を送ったり義勇兵の募集に応じたりして支援するのは間違っている。
ウクライナの人々に対する支援は、厳しい経済制裁を徹底してロシアのプーチン政権が内部崩壊するのを期待するしかない。米国は腹を括ったように見える。バイデン政権は極めて早い段階から武力介入しない姿勢を明確にし、次々と経済制裁のレベルを上げている。
その代償は大きい。既に原油や小麦など資源価格が急騰しており、一段の上昇や長期化の恐れもある。それでも、プーチン政権の蛮行を止めるための手段が限られているならば、「痛み」を甘受するしかない。少し飛躍するが、個人的にもできるだけパンや麺類ではなくコメを食べ、節電など一段の省エネルギーに努めようと思う。
コロナ禍に伴う物流の混乱で、昨年から値上がりが続いていた原油や穀物の国際相場は、ロシアの侵攻で一段と騰勢を強めている。特に小麦と家畜飼料は、ロシアとウクライナの両国とも大輸出国だ。これから最盛期を迎える作付けへの影響は甚大だ。
生産だけでなく物流の打撃も大きい。黒海に面したウクライナの港湾は物流ハブ(中軸)であり、ザポリジャ原子力発電所への攻撃を受けて船舶の寄港が難しくなっている。すでに損害保険会社は黒海を運航する船舶に対する保険料を大幅に値上げしており、ウクライナ産の小麦への依存が大きいエジプトなど北アフリカでは、値上がりどころか、現物を入手できず飢餓を招く恐れが日増しに強まっている。
日本は小麦のほとんどを北米とオーストラリアから輸入しているため直接の影響はないが、国際相場の高騰を受けて政府は輸入小麦売り渡し価格を22年4~9月期に現行から17.3%引き上げる。輸入価格はさらに高騰する可能性が高い。日本が従来の量を確保すれば、国内の痛みを緩和できるかもしれないが、不足のしわ寄せは途上国が負う。自分だけ良くて、食料不足を他国に押し付けてよいのか。日本が「資源争奪戦」に参戦することの意味を考えてみたい。
1993年の冷夏で日本のコメが不足した時、当時の日本政府は国際市場で大量のコメを買い付け、その結果コメ相場は急騰してタイなどアジアの貧しい人々を苦しめたことがある。しかも、そうまでして確保した輸入米を消費者は「まずい」と言って受け付けず、大量に廃棄した。
途上国を中心に食料不足や飢餓の恐れが高まる中、ロシア産のキャビア、イクラ、カニなどの品薄を嘆いていて良いのか。小麦の輸入減と価格上昇をある程度受け入れ、国際市場に出回る量を少しでも増やすことが国際貢献ではないのか。
小麦の輸入量が減っても日本で飢餓は起きない。パンや麺に代替できるコメが余るほどあるからだ。国産小麦や飼料の増産も可能だ。値上がりで打撃が大きい人や家庭に対しては、現金や現物の直接給付で痛みを緩和できる。
確かに、コメの消費を増やし省エネに励んでも、国際的な食料や燃料不足に対しては「焼け石に水」かもしれない。消費の好みや生活パターンも人それぞれだ。それでも筆者は、できるだけコメを食べ、付けっぱなしの電灯をこまめに消し、自動車を使うのを控え、もっと歩こうと思う。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)
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