社会の分断、加速の恐れ 食品値上げ相次ぎ家計直撃 共同通信アグリラボ所長 石井勇人
2022.01.10
年明けとともに、食品の値上げや品不足が相次いでいる。新型コロナウィルスの感染拡大による物流の混乱だけでなく、複数の要因が重なっており、春に向けてさらに値上げ品目が増えそうだ。生活必需品である食料の値上がりは格差を拡大する恐れがある。
値上げラッシュ
山崎製パンは年初に食パンと菓子パンの出荷価格を平均7.3%値上げ、日清フーズは1月4日から小麦粉製品を約3~6%、ミックス粉製品を約4~6%値上げした。カルビーは1月下旬にポテトチップスを値上げ、J-オイルミルズは2月1日から菜種油製品を1㌔当たり40円以上値上げする。キユーピーは昨年7月に値上げしたマヨネーズを3月に再度値上げする。
これらの値上げは、原材料となる小麦、トウモロコシ、大豆などの国際相場の上昇が主因で、昨年に「予告」されていた。コロナ禍で停滞していた経済活動が世界的に回復に向かい、需要が急増したためだ。
原油相場も上昇しており、燃料費や輸送費の高騰に直結するだけでなく、ガソリンの代替品であるエタノールの価格を押し上げ、その原料であるトウモロコシの相場が上昇し、トウモロコシを起点に他の食材全般に値上げが波及する構図だ。
経済活動が回復する一方で、感染拡大の防止対策は緩和できず、労働力不足が続いている。食品工場や港湾の機能が低下し、特に輸送コンテナの不足が深刻だ。さらに各国が採用した大規模な金融緩和により、投機資金が膨れあがり穀物など商品相場を押し上げている。米国は金融を引き締める方向に舵を切ったが、これにより外国為替市場で円安が進み輸入食品の価格が上昇している。
複合要因
持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた活動も値上がりの要因だ。地球温暖化ガスの排出削減に対応するためバイオ燃料への需要が高まり「グリーン・インフレーション」と呼ばれる物価上昇圧力が掛かっているからだ。森林保護の意識も高まり、パーム油は主産地のマレーシアで環境保全に関する認証が強化され、供給が減っている。
コロナ禍の前から顕著になっていた中国の内需拡大も価格を押し上げている。豚の飼料となる穀物だけでなく、幅広い食材の調達を増やしており、冬季五輪を控えて購買意欲は強まる一方だ。
これら複数の構造的な要因に加えて、主産地カナダの干ばつで生産量が減少している菜種や、大産地ブラジルで冷害が起きているコーヒー豆など品目によっては不作が重なっている。
スクリューフレーション
小売店や外食産業では、消費者の買い控えや客離れを警戒して、値上げには慎重だが、それも限界を迎えている。春からの新年度に向けて値上げを検討する企業も多い。(関連記事:食材費高騰が外食産業の収益圧迫 ジェフマンスリー2021年12月号から)
仮にコロナ禍が沈静化しても、値上がりは続きそうだ。食品など生活必需品の値上がりは所得が低いほど痛みが強く、ダメージが小さい高所得者層との格差が拡大する恐れがある。聞き慣れない言葉だが、中産階級の貧困化(Screwing)と食品や燃料など生活必需品の価格上昇(Inflation)が重なった「スクリューフレーション(Screwflation)」が深刻化する。日常生活の中で直接感じる食品や外食の値上がりは実態以上に不安を高めるだろう。
この事態を回避するには、岸田文雄政権が進めている賃金引き上げ政策を確実に進める必要があり、この点に関しては、具体的な手法や上昇目標の水準に違いがあるにせよ、野党にも異論はないはずだ。
ただ仮に賃金アップが実現するとしても、進行中の値上げラッシュにはとても追いつけない。夏の参院議員選挙を控えて、追加的な現金給付や「お米券」のようなクーポンを使った現物給付、さらに幅広い品目で値上がりが急ピッチで進む場合は、消費税の一時凍結や食料を含む生活必需品の適用除外などが焦点になるだろう。(共同通信アグリラボ所長 石井勇人)
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