「養液土耕」に挑む ハウス整備費の負担減へ 連載「きゅうりタウン構想 徳島・海部の挑戦」4回続きの(4) 高橋翼 徳島新聞記者
2020.12.25
徳島県海部郡で進められている「きゅうりタウン構想」は、2015年度のスタートから5年が過ぎた。構想は10年間。折り返しを迎えた。
海部郡内3町、県、JAかいふでつくる海部次世代園芸産地創生推進協議会が、10年後の目指す姿として掲げた数値目標は▽栽培面積10㌶(15年度5.6㌶)▽10㌃当たりの収穫量30㌧(同20㌧)▽栽培面積30㌃の所得1000万円以上(同690万円)―の3つ。
現状はどうか。面積は19年度で4.8㌶。構想前に、何もしなければ5年後には4.5㌶に減るとした予測は上回っているが、15年度より減少している。10㌃当たりの収穫量や所得には「まだ評価できる段階ではない」(推進協議会)という。
「農家の減少を食い止められたのが一番の成果」。推進協議会の濵﨑禎文会長=JAかいふ組合長=はそう話す。14年度に31戸だったキュウリ生産者は、5年後に23戸に減ると予想されていたが、新規就農者が相次いで27戸となっている。
直面する課題は、1棟約4000万円かかる養液栽培のハウス整備費だ。当初から高いハードルとなっていたため、JAかいふが建てて就農者にレンタルしていた。既に7棟あり、JAはこれ以上の負担が難しくなっている。
このため協議会は、養液と土耕を合わせた「養液土耕栽培」という新たな分野に挑んでいる。土作りが必要になるものの、各種センサーで自動管理できる養液栽培の特長を生かしたまま、ハウスの規模を小さく抑えられる。
海陽町塩深のハウスで初めて養液土耕栽培を取り入れた岸本行宏さん(65)は「養液が自動で送られるため、収穫の途中で手を止めて肥料を作る手間が省け、作業時間の短縮につながった」と話す。
新規就農者を育てる「海部きゅうり塾」も養液土耕栽培にシフトしている。大阪府からUターンした6期生の近藤幹徳さん(27)=牟岐町出身=と佳代さん(28)夫妻は、週1回の座学に加え、JAきゅうり部会の西田公人部会長(50)が海陽町富田に整備した養液土耕のハウスで実習を受ける。2人は「自分たちの技術として落とし込められるように勉強していきたい」と言う。
(写真:養液土耕について西田部会長=左=から技術を教わる近藤さん夫妻=海陽町富田)
このほか、既存生産者の技術の底上げにも努め、協議会は知識を学び直す「リカレント講座」を6月に始めた。
きゅうりタウン構想の取り組みは、パンで挟んだ「きゅうりドッグ」が海陽町のベーカリーで販売されたり、海部高校生がキュウリを使ったコース料理を考案したりするなど地域にも波及している。地域創生の事例として全国から注目されるようになり、これまで約300団体が視察に訪れた。
1948年に始まったとされる海部郡のキュウリ栽培。濵﨑会長は「70年続く産地をなくすわけにはいかない。これからも突き進んでいきたい」と力を込めた。(文・写真 徳島新聞海部支局記者 高橋翼) =おわり
(徳島新聞 2020年11月25日付 掲載)
連載「きゅうりタウン構想 徳島・海部の挑戦」
第1回:移住者相次ぎ活性化 若返った生産者
第2回:人を呼び込み、育てる きゅうり塾で座学と実習
第3回:管理易しく収量も安定 国内トップ走る養液栽培
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