管理易しく収量も安定 国内トップ走る養液栽培 連載「きゅうりタウン構想 徳島・海部の挑戦」4回続きの(3) 高橋翼 徳島新聞記者
2020.12.18
「実用化に成功した全国最初の例」。明治大農学部の池田敬教授(生産システム学)がこう高く評価するのが、徳島県海部郡の「きゅうりタウン構想」で取り組んでいる「養液栽培」だ。これまで国内ではトマトやイチゴで実績があるものの、キュウリの技術は確立されていなかった。
従来、キュウリは土を使う「土耕栽培」で生産されている。収量に大きくかかわる土作りは、経験と知識に大きく左右され、5年程度はかかるといわれる。連作障害を防ぐため、収穫後は1~2カ月ほど間隔を開けて土壌消毒しなければならない。
これに対し、養液栽培はハウス内の環境が自動で管理される。連続して苗が植えられ、年間収量の増加が見込める。トラクターや耕運機は要らない。(写真:養液栽培は土を使わない。ウヤシガラに苗を植え養分や水分が自動で送られる=海陽町野江)
併せてハウスの強化を考えた。従来は台風が直撃すると壊れ、生育に大きな影響を受ける。台風常襲地帯であり、長年悩まされてきた。風速50㍍の強風に耐えられるよう設計し、最新技術で新規就農者の負担を軽減するとともに、安定した収量の確保を狙った。
とはいえ、きゅうりタウン構想を掲げた2015年度当時、国内ではわずかな企業や農家が試行的に取り組んでいた程度だった。収穫期後半になると実の生育が極端に落ち込み、収益性に課題があった。
挑戦した理由について県美波農業支援センターの原田正剛課長補佐は「収量では、作付面積の大きい高知や宮崎といった特産地にかなわない。小さな産地が注目されるためには、最新技術という光るものが必要だった」と話す。
海部郡3町、県、JAかいふでつくる「海部次世代園芸産地創生推進協議会」は16年、海陽町吉野に8㌃の実験ハウスを設けた。研究を進めていた種苗会社や明治大などの協力を得て適切な品種を調査。1年を通じた試験で土耕栽培と同レベルの収量を記録できたため、本格導入を決めた。
養液栽培で新規就農している「海部きゅうり塾」の卒塾生からは「機械で栽培管理され、技術のない初心者としては助かる」「土作りは長い期間が必要なため、最初からある程度の収量が見込めるのはありがたい」などと好評だ。
17、18の両年には「全国きゅうり養液栽培サミット」を開き、大学の研究者や実践している農業者らを招いて意見交換した。経験や勘に頼る部分を少しでも減らそうと、現在も実験ハウスでデータを積み重ねている。
明治大の池田教授は「養液栽培の分野ではトマトが飽和状態になりつつあり、別の品目で参入を考えている事業者や生産者にとって海部郡での成功例は背中を押す」と指摘。「今後も意欲がある人を受け入れ、一過性ではないと広くアピールすべきだ。『徳島にきゅうりタウンあり』と全国に知られることを願っている」と期待した。(文・写真 徳島新聞海部支局記者 高橋翼)
(徳島新聞 2020年11月24日掲載)
連載「きゅうりタウン構想 徳島・海部の挑戦」
第1回:移住者相次ぎ活性化 若返った生産者
第2回:人を呼び込み、育てる きゅうり塾で座学と実習
第4回:「養液土耕」に挑む ハウス整備費の負担減へ
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