移住者相次ぎ活性化 若返った生産者 連載「きゅうりタウン構想 徳島・海部の挑戦」4回続きの(1) 高橋翼 徳島新聞記者
2020.12.04
農業を取り巻く環境は厳しく、後継者不足が深刻化している。基幹産業である地方は人口減少が加速する。キュウリ産地の存続と地域活性化を目指す徳島県海部郡の挑戦を追った。
清流として知られる海部川と、ホタルの名所で有名な母川に挟まれる一帯(海陽町野江)は近年、ビニールハウスが増えている。キュウリ栽培の新規就農者が相次ぎ、今では「キュウリ団地」と呼ばれる。(写真:キュウリ栽培のビニールハウスが並ぶ海陽町野江地区)
「花からはバニラに似た香りがして、開花する頃は癒やされます」。そう話すキュウリ農家の満尾匡記さん(36)に案内されて、ハウスに入った。高さ3.8㍍、奥行き約50㍍で、害虫防止のため土足は厳禁。地面はビニールシートで覆われスリッパに履き替える。
高さ50㌢ほどの台に、苗が45㌢間隔で植わる。土はなく、ヤシガラを培地にした「養液栽培」で育てられている。ハウス内の温度や湿度、二酸化炭素量、与える養分や水分の量などは機械で管理され、従来の農業のイメージとはかけ離れた雰囲気が漂う。
満尾さんは2017年、大阪府吹田市から妻の美香さん(38)、子ども2人と共に移り住んだ。前職はシステムエンジニア。以前から農業や田舎暮らしに興味があり、大阪市内で開かれた移住相談会でキュウリの養液栽培と出合い、エンジニアとしての経験が生かせるのではないかと考えた。
その2年前、海部郡内では大きな計画が動き出していた。郡内特産のキュウリを栽培する農家の減少と高齢化に危機感を持った海部郡3町、県、JAかいふが15年、「海部次世代園芸産地創生推進協議会」を設立。「きゅうりタウン構想」を打ち出し、新規就農者を育てる「海部きゅうり塾」を開講させた。
満尾さん夫妻は、塾の4期生として入塾した。10カ月間の受講を終えた後、18年に15㌃のハウスで就農。「前職より収入は減ったが、都会に比べて物価は安い。生活に不便は感じたことはないですね」と笑う。
同じ野江地区で17㌃を栽培する伊藤千尋さん(38)は、塾の2期生。埼玉県川越市で両親と共に有機堆肥などを販売していた。「本格的に農業に打ち込みたい」と、16年に母親の出身地である海陽町にやってきた。
簡単に変化する生育状況に頭を悩ませながらも「予想した通りに順調に育ってくれた時がうれしい」と充実した表情を見せる。移住後に2人目の子が生まれ、家族で過ごす時間も増えた。
ピーク時の1980年度に100戸を超えていた郡内のキュウリ農家は、推進協議会設立前の2014年度には31戸まで減った。高齢による引退で10年後には20戸になると予測されていた。
構想を掲げてから5年。静岡や香川など6府県からのU・Iターン者17人(14戸)が郡内で就農し、14年度に66.9歳だった郡内キュウリ生産者(各戸の代表)の平均年齢は、19年度には52.9歳と若返った。(文・写真 徳島新聞海部支局記者 高橋翼)
(徳島新聞 2020年11月22日付掲載)
連載「きゅうりタウン構想 徳島・海部の挑戦」
第2回:人を呼び込み、育てる きゅうり塾で座学と実習
第3回:管理易しく収量も安定 国内トップ走る養液栽培
第4回:「養液土耕」に挑む ハウス整備費の負担減へ
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