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人を呼び込み、育てる  きゅうり塾で座学と実習  連載「きゅうりタウン構想 徳島・海部の挑戦」4回続きの(2)  高橋翼 徳島新聞記者

2020.12.11

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人を呼び込み、育てる  きゅうり塾で座学と実習  連載「きゅうりタウン構想 徳島・海部の挑戦」4回続きの(2)  高橋翼 徳島新聞記者の写真

 「アブラムシによってカビが生えると光合成ができなくなり、商品の価値が下がるので注意してほしい」。徳島県海陽町野江のJAかいふきゅうり塾事務所で、県美波農業支援センターの職員が病害虫防除について教えていた。

 真剣な表情で聞いていたのは「海部きゅうり塾」の6期生。「流行している害虫はいないのか」「ウイルスの判定方法は」などと質問し、職員が丁寧に答える。

 新規就農者を養成するきゅうり塾は、産地の拡大を目指す「きゅうりタウン構想」の中核的存在だ。10カ月間かけて「植物生理」「農業経営・流通」などの座学と、定植から収穫までの実習を通して基本的な知識や技術習得に励む。受講料は無料。

 「イロハのイも分からない状況で、一から教えてもらえるのは大きい」と話すのは、6期生として京都市から5月に入塾した川嶋雄一さん(35)。アウトドアを楽しみながら生活できる環境をインターネットで調べていたところ、きゅうりタウン構想が目に留まった。

 会社勤めをしていたため、自分で経営できる農業に興味を持った。決断を後押ししたのが、きゅうり塾の存在。「実習しているハウスでの生育状況に合わせ、座学で関連づけて教えてくれるので非常に分かりやすい」と言う。

 受講後の就農に向けた支援も手厚い。機械で管理する養液栽培のハウス整備費は1棟約4000万円。約7割が国や町などから補助され、自己負担は約3割とされるが、初期投資は容易ではない。

 このため、JAが建てて、年間約120万円で最長5年間借りられるレンタル制度を設けている。就農後はJAの営農指導員らが定期的に巡回し、助言している。

 こうした支援態勢に加え、関係者が「呼び込むのに効果があった」と口をそろえるのが、具体的な収支計画の提示だ。移住に当たっては、収入面を不安視する人が多い。

 海部郡3町、県、JAかいふでつくる「海部次世代園芸産地創生推進協議会」は一つのモデルとして「20㌃のハウスを2人で手掛ければ、1500万円の収入が見込め、費用を除いて500万円が所得となる」と掲げた。

 JAかいふの山本強常務は「移住相談会などでは多くの地域が自然環境の良さをアピールし、異色だったと思う。具体的に絵を描いて見せないことには、実際に生活のイメージが湧かないと考えた」と説明する。

 肝心の所得は実現しているのか。山本常務によると、想定している20㌃の栽培面積に達する新規就農者がまだいないものの、1000万円の収入を超える世帯も出始めているという。

 人を呼び込み、育てて根付かせる。きゅうり塾には、19年度の5期生までに24人が入塾し、多くが初心者でありながら7割を超える17人が海部郡内で就農している。(文・写真 徳島新聞海部支局記者 高橋翼)

(徳島新聞 2020年11月23日付掲載)


連載「きゅうりタウン構想 徳島・海部の挑戦」
 
 第1回:移住者相次ぎ活性化 若返った生産者
 第3回:管理易しく収量も安定 国内トップ走る養液栽培
 第4回:「養液土耕」に挑む ハウス整備費の負担減へ

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