和食の季節を楽しむ 藤野嘉子 料理研究家 連載「口福の源」
2024.12.09
今年は、松茸(まつたけ)が豊作のようですが、遊び心のある食べ方として、土瓶蒸しがあります。
おいしい一番だしを作り、専用の土瓶に、松茸を入れて、鱧(はも)、銀杏(ぎんなん)、麩(ふ)、三つ葉など材料を入れ、だしを注いで、直火にかけて作ります。いただき方は、小さいお猪口(ちょこ)におだし汁を注いで、まずは一口。その作り手さんのだしの意気込みを受け取ります。あとは具材をお猪口に取り出して、スダチを絞り、いただきます。なんとも言えないひとときです。
香りを楽しむ。具材の季節を感じる。お猪口に自分でだし汁を注ぎ、お酒のようにゆっくりと飲む。食を楽しむ趣向にぴったりです。
料理の由来は諸説いろいろあるようで、もとは鍋で作っていたとか。私は、もう何回も土瓶を買おうか、かさばる土瓶の収納はどうするかと悩み、とうとうオール電化のキッチンになり、直火というものがなくなりました。直火の時はカセットコンロで作る不便さです。
今回は松茸の土瓶蒸しの心意気だけをいただき、おいしいきのこの吹き寄せ椀です。具たくさんのおもてなし、お吸い物です。いただき方は、おだしを味わってから、スダチを絞ってきのこを味わってください。
忙しい日常は、だしを取らない食事が多くなりますが、秋のごちそう椀の時は、ひと手間かけて、昆布と鰹節(かつおぶし)のおだしを楽しんでいます。和食っていいなあ。と、気持ちが改まります。
<材料>2人分
・椎茸、しめじ、エリンギ、えのきなど 200g
・鯛の切り身 1切れ(下味 酒小さじ1、塩少々)
・銀杏、生麩など彩り物、三つ葉 適量
・だし汁400cc(塩小さじ1/2、薄口醤油小さじ1/2)
<作り方>
①椎茸、エリンギは石付きを切り薄切りにし、しめじ、えのきは石付きを切り、ほぐして食べやすく切ります。
②鯛は骨を取り皮つきのまま斜めそぎ切りにして酒、塩で下味を付けます。
③だし汁に塩、薄口醤油を入れ沸かして、鯛を加えます。再び沸いたらあくを取り、銀杏、生麩、きのこを加え1分ほど加熱してから火を止めます。
④お椀に盛り付け、三つ葉をのせ、スダチを添えます。
*だしの取り方
水5カップに昆布10㎝を漬けて15分ほど置きます。火にかけ、沸いたら昆布を取り出して、削り節20gを加え火を止めます。粗熱が取れたら漉(こ)してください。
*水だしの取り方(これは便利です)
昆布10㎝、削り節(厚削り)15gを水5カップとともに保存容器に入れて、冷蔵庫で一晩置きます。漉すと濁りのないすっきりとしたおだし汁が取れます。2回目は水をひたひたに加えて、沸かしてください。煮物だしが取れます。
(Kyodo Weekly・政経週報 2024年11月25日号掲載)
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