食べ物語

名物キビナゴを食す  小島愛之助 日本離島センター専務理事  連載「口福の源」

2023.05.15

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名物キビナゴを食す  小島愛之助 日本離島センター専務理事  連載「口福の源」の写真

 甑島(こしきしま)は鹿児島県薩摩川内市の川内川河口から西約26㌔の東シナ海上に位置し、上甑島、中甑島、下甑島の三つの有人離島が、北東から南西に35㌔にわたって連なっている。

 変化に富んだリアス式海岸や8000万年前(白亜紀)の地形がむき出しになった断崖など、圧倒的な自然の景観美と太古のロマンにあふれた島である。この三つの島を合わせると、117.04平方㌔㍍に4000人近い住民が暮らしている。

 本土からは、薩摩川内市の川内港から高速船甑島で上甑島の里港まで50分、いちき串木野市の串木野新港から「フェリーニューこしき」で同じく里港まで75分で渡ることができる。

 上甑島と中甑島は、無人島の平良島を挟んで、1993年に開通した甑大明神橋と鹿の子大橋で結ばれていた。その後、2020年8月29日に中甑島と下甑島を結ぶ甑大橋が開通し、三つの島が陸路でつながった。

 甑島の観光スポットを紹介してみたい。まず、上甑島の長目の浜、大小四つの池と海を隔てる砂州が4㌔にも及んでいる。上甑島と中甑島をつなぐ二つの橋のうち、鹿の子大橋は夕陽を眺めるには最適のロケーションにある。

 そして今回加わった甑大橋、かつて交通の難所であった藺牟田の瀬戸に架かる全長1533㍍という鹿児島県内最長の道路橋は、まさに「甑を一つ」にした希望の橋である。車で走行すると、空と海に吸い込まれそうな気分になるが、橋の両端の陸地にある展望所から眺める景色も素晴らしいものである。

 下甑島に渡ってみよう。海上から眺める鹿島断崖は変化に富んだ巨岩、奇岩が数多く点在する景勝地である。甑島列島からは、しま山100選に二つ選ばれているが、その最高峰が尾岳である。登山口の標高が約450㍍と高く、また稜線の山歩きであるため、上り45分、下り30分と比較的容易に登ることができる。

 忘れてはならない名所が、瀬々野浦の海上に突き出た高さ122㍍の奇岩、横から見ると有名なフランスの偉人に似ていることから、ナポレオン岩と命名されている。

 ちなみに、「Dr.コトー診療所」の舞台「古志木島」や主人公はそれぞれ、下甑島、手打診療所長だった瀬戸上健二郎医師がモデルである。歌手森進一さんの母親の出身地でもあり、手打に「おふくろさん」の歌碑がある。

 甑島の名物の一つが魚体の大きいキビナゴである。目の大きい網でキビナゴ漁を行うため、10㌢を超える極太のキビナゴが取れ、それを新鮮なままに味わうことができる。

 5月から6月にかけての子持ちの時期がおいしいという人もいれば、冬場の脂ののった時期が一番おいしいという人もいるなど、季節によって異なる美味が1年を通して味わえる食材なのである。(写真:筆者撮影)

 新鮮さ故に、刺身を酢みそで食す伝統的な食べ方も良し、しょうゆと味醂に漬け込んだキビナゴを漬け丼で食すのもいいが、海上天日干しのキビナゴをフライパンで乾煎りして食べると格別の風味が感じられる。ぜひお試しいただきたい。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年5月1日号掲載)

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