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3年トラフグ、沼島でも  小島愛之助 日本離島センター専務理事  連載「口福の源」

2023.06.26

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3年トラフグ、沼島でも  小島愛之助 日本離島センター専務理事  連載「口福の源」の写真

 沼島は、淡路島の南4.6キロの紀伊水道北西部に浮かぶ離島であり、兵庫県南あわじ市に属している。面積2.71平方キロ、周囲9.53キロに、202世帯、392人(202212月末現在)が暮らしている。公共交通機関によるアクセスは、神戸三宮から高速バス(1時間30分)とコミュニティーバス(1時間)を乗り継いで到着する灘・土生港から沼島汽船で10分というルートが一般的である。

 島の最高地点は、しま山100選にも選ばれている石仏山(125メートル)頂上で、沼島港の南北に1カ所ずつある登山口のどちらから登り始めても、反対側に下ることによって、島の周遊道路7.9キロを約4時間で1周することができる。景観を楽しみながらの島1周コースの間には、コースを少し外れた場所から見える奇岩上立神岩、古くから海上安全と四季豊漁を祈願してきた山ノ大神社、沼島灯台などに出合うことができる。

 沼島は、中央構造線の南側に位置しているため、全島が三波川変成帯の結晶片岩によって構成されており、南岸の海食崖には緑、白、黒などさまざまな縞模様が現れている。また、世界でもフランスとカナダでしか発見されていない、「地球のしわ」ともいわれる珍しい同心円構造の鞘型摺曲が見られることでも有名である。

 沼島を語るには、国生み神話を避けて通ることはできないだろう。記紀神話によると、天津神に国造りを命じられたイザナギ、イザナミの2神が天浮橋に立ち、天沼矛で世界をかき回し、その矛を引き上げたところ、矛の先から滴り落ちた潮が固まって一つの島となった。これがオノコロ島であり、2神はその島に降り立って、夫婦の契りを結んで国生みを行ったとされている。沼島はそのオノコロ島の最有力比定地なのである。島の西南部にあるおのころ山には、2神を祭るおのころ神社があり、2神の像も建てられている。

 沼島にはいまひとつ、伝説めいた話が残されている。治承41180)年の石橋山の戦いで源頼朝は敗走しているが、この時に手助けをしたのが平家方の武将であった梶原景時であり、後に頼朝の御家人に列せられている。景時自身は、頼朝の死後に他の御家人から疎んじられて追放され滅亡している。この景時が沼島水軍と縁が深いために、沼島・神宮寺の飛び地境内にある供養塔「五輪塔」には景時の遺骨が埋葬されているというのである。

 さて、沼島の主要産業は漁業であり、古くから夏のハモ漁が有名であるが、今回は淡路島3年トラフグを紹介したい。対岸の南あわじ市福良湾で育った3年トラフグは、水温が低く、日本一潮の流れの速い鳴門海峡近くで養殖されているため、身がしまり、味が濃厚になっている。また、一般的に2年目に出荷されている養殖ふぐに比べて、1年長く育てられたことによって、2倍近くにも成長し、白子も大きくなる。この淡路島3年トラフグ、もちろん淡路島本島でも食べられるが、沼島では木村屋旅館などで提供されている。

(Kyodo Weekly・政経週報 2023年6月12日号掲載)

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